柏原選手の覚悟

 今回も見事に第5区で区間賞を獲得して往路逆転優勝を果たした柏原選手の、レース後の涙に強い印象をうけた。それまでのレースでは不調だった、彼の苦渋の一端が垣間見れたからだ。それをより味わい深いものにしたのが、翌日の新聞で紹介された柏原のコメント。レース当日、彼が監督に電話で伝えたものだという。


「つぶれるかもしれませんが、覚悟してください」
 実際にレースを走った経験があればわかるけれど、最初から飛ばす走り方は、両脚に早く乳酸がたまってしまい、思うように動かせなくなるリスクが高い。しかも上り坂が多い箱根の第5区となれば、そのリスクはいっそう高まる。


 柏原自身、不調をかこっていたわけでから少なくとも前半5キロは慎重にいき、身体が暖まってからペースアップする安全策をとりたくなるはずだ。今回、彼が3位でたすきを受け取った時点で、早稲田との差は3分にも満たなかった。その前年は4分超の差を逆転してみせた地力があるのだから、それでも逆転の可能性はじゅうぶんにある。


 しかし、彼は20キロをこえる区間の、最初の1キロ3分を切るペースで突っ込んでいった。
 走力や走る技術だけなら柏原クラスの選手は他にもいるかもしれないが、その強い気持ちが加わってはじめて、「新・山の神」とも呼ばれる、あの爆発めいた快走がうまれることを改めて思い知らされた。
 もちろん、柏原のフォームは、スチャラカにはけっして真似できない。けれど、どんなことでもかまわないが、それほどの覚悟を決めて最近のおまえは何かに取りくんだことがあるのか、そう自分に問うことならかろうじてできる。