白洲正子『金平糖の味』

金平糖の味 (新潮文庫)

金平糖の味 (新潮文庫)

 じつに濃厚な味わいで、何度も読み返さないと飲み下せない、いや、何度読んでも駄目かもしれない。
 それほど文章の行間は深くて広い。たしかに表記法の違いはあるが、この一冊に収録された文章に30余年のタイムラグがあるとは思えない。散積していた文章を拾い集めた編集者の眼力もまたすばらしい。


 たとえば、教えることの無力さと、その醍醐味を書いた「先生たち」。教える側に求められる忍耐と、弟子のレベルに関わらず、人間を完成させる喜びを彼女はまず指摘する。
 そのうえで、教えることに潜む、自分の思うように他人をあやつり、また同時に、自分もあやつられるような関係が、師みずからが演じる(あるいは制作する)際にも求められる、と。よく言われる「教える事はいい勉強になります」とは、そこまでを言いふくめていると書く。

先生というものは教えるものではない、また教えられるものでもない。人間は人間にどうすることもできない。そういう事を芸の伝統が彼等に教えた。