鈴木紀慶編著『倉俣史朗 着想のかたち』(六耀社)

倉俣史朗着想のかたち―4人のクリエイターが語る。

倉俣史朗着想のかたち―4人のクリエイターが語る。

 4人による空間、あるいはインテリア・デザイナー倉俣史郎論。とくに深澤直人さんの視点が、きりりっと鋭角に刺さっている感じがしていい。
インテリアデザイナーとしての倉俣さんの、代表作である椅子。背もたれ部分が省かれ、それを肘掛け部分で代替されている椅子。あるいは、三本脚のスツールだが、お尻直下の脚を、背もたれ部分の逆Uの字型のパイプで代替している椅子について書く。

 前脚から丸い座の下を通って背につながるパイプのラインは、椅子そのもののアイコンのシルエットであり、それを逆さのUの字の後ろ足で支えている姿は、椅子の象徴的な部分のエッセンスをすべて持ちながら、最低の構造と素材によって成り立っています。確かに椅子を横から見た一本の折れ曲がったパイプさえあれば、座ることはかなうのです。

 
 椅子にとって欠かせない機能とは何か。
 人が座るべき平面と脚、そして背もたれ。その3つのパーツを椅子でなくなるギリギリまで削りつくそうとする倉俣さんの姿勢。しかも、それをどこかユーモアめいたデザインで見せようとするユーモア精神。そこを指摘したうえで、深澤さんはテーブルについての記述でこう書く。

 突き詰めれば、その厚みのない平面だけがみんなが期待する唯一の機能なのです。彼はそのために重力を支える脚を省くことはできないだろうかと考え、厚みのない平滑面ができないだろうかと思案したに違いありません。それあ不可能であるがゆえに現実離れした「夢」としてとらえられてしまうかもしれませんが、それはむしろ極まった必然の姿であり、人々の純粋な思いの結晶なのです。

 現実ではないモノやコトではなく、現実のただ中にある極まった必然のかたちを求めること。それを「機能をこえた美」と呼んだ倉俣さん、「人々の純粋な思いの結晶」と見た深澤さん。