臥雲の庭(京都・東福寺「霊雲院」)

 ただただ、ぼーっとしてみる。
 動かない枯山水の庭を ぼんやりとながめ、風にゆれる青竹や松の葉ずれの音に耳をすまし、ゆったりと流れる雲を追いかける。縁側に止まる蝿をまんじりともせず見つめていると、夏の獰猛な日差しとは相容れない、なんともさわやかな風を頬にあびて涼を感じることもある。少し得をした気分になる。 


 京都取材の翌日、大阪の実家を早朝出て、京都に向かった。京都駅前で打ち合わせをひとつ終えて、新幹線の時間まで、重森三玲の庭を見て過ごすことにした。
 東福寺の方丈庭園が目的だったが、境内を進んでいると、霊雲院にも三玲の作庭した、二つの枯山水があることを思い出した。まっ、実際にはひとつづきなんだけど。


 臥雲の庭は、雲と川と山が同じ平面に描かれている。最初はふ〜んという感じだった。まっ、北斗七星を枯山水に取り込んだ人だからね。だが、しばらくぼんやり眺めていると、その先の青竹の葉ずれの音が気になり、視線を上にあげると、さらにその向こうの雲に動きが目に入った。


 その瞬間、枯山水の雲と、8月10日の雲がだまし絵のように僕の中でシンクロする。上下の感覚がゆらぎ、止まっているものと動いているものが反転し、三玲の庭が動きだす。それは不意打ちのようにやってきた。