砂田麻美監督『エンディングノート』

 父親の営業口調(?!)を真似たかのような、「私、○○○でございます」調のナレーションが、作品に適度な距離感をあたえると同時に、乾いたユーモアで作品を包み込んでもいる。この映画がもっとも成功している点。


 定年後の新生活を始めたばかりのサラリーマンの父親。その段取り上手な彼の、唐突ながん発症から闘病、そして死去までのドキュメンタリーを、実の娘が淡々と撮っている。そのジメジメしがちな先入観を、冒頭のようなナレーションがさわやかに裏切りながら、なおかつポイントではきちんと泣ける仕上がり。


 最期に向けた準備を記録するエンディングノートという手段を、映画として追いかける演出もうまくはまっている。主人公である父親の毅然とした態度はもちろん、その意志を必死で尊重しようとする家族の姿勢も凛々しい。一方で、人が成熟するとはどういうことなのか、という問いかけを、見る者に静かに突きつけてくる後味もいい。