ファミリーマートで

 最寄りの地下鉄の駅で下り、奥さんに頼まれていたタバコを買うために、コンビニに寄る。入口近くにタバコのディスプレイが見えたので、何も考えずに入口近くのレジ前に立つ人の後ろに並んだ。で、前の人が会計を済ませて、ぼくの順番かと思った瞬間だった。


 レジ係の女性は、ぼくを見ることもせず、視線を店の奥に向けて、「お待ちの方から順番にお願いしま〜す」。その言葉にうながされて彼女の顔が向いている方を見ると、二人の客が待っていて、彼女をふくめて3人のレジ係が並んでいることに、その時初めて気がついた。すると彼女にうながされて、列の先頭の男性が彼女のほうへ進み出てきた。


 なるほどね、とぼくは、そのまま店内の列の後ろ、入口から見て三番目のレジの近くの列に並んだ。すると、さっきのレジの女性が、その三番目のレジ近くまで何かのついでかやってきて、まるで能面みたいな表情で、ぼくの顔をまじまじと見た。その魚のハゼと動物のサイを足して二で割ったような女性の能面から、こんな言葉がたしかに聞こえてきた。


「おまえ、順番に並べよな!」


 彼女の対応は効率を極めたものだったのかもしれない。
 別の男性からタバコを買ってコンビニを出た後、ふいにそんな考えが浮かんだ。
 あの場面で「お客様、申し訳ありませんが、列に並んだ順番でお会計をお願いしていますので、列の後ろにお並びいただけますか?」と伝える労力を省くには、冒頭通り、その列に丁寧に呼びかけるほうが楽だ。その一言で、待っている客と、勘違いしたぼくの両方に対応できる。


 だが、接客としては間違いなく最低。コンビニでは許されても、百貨店では許されない。その丁寧な棘をその人件費のリーズナブルさゆえに許容するコンビニが、24時間営業しているという便利さゆえに日本中に増殖している。