池田晶子『14歳からの哲学』〜かっこいい大人

 オレって駄目だなぁと。
 近頃、そう痛感させられることがいくつか続いた。
 そんなときに、柄にもなくこんなことを考えてしまう。いったい、どうやって「大人」になっていけばいいんだろうか、と。

 相手の言葉や思いを、心の手前ではなく、奥までしっかりと引きつけて受け止めて、ちょっと吟味してから投げ返す。歳だけ食っているくせに、そういう技術や度量がない。

 そんなときに、池田さんのこんな一節に出くわして、そう、まさに出くわして、ああ〜っとため息がもれた。

 
お父さんやお母さんの気に入らないところ、ダメだなぁと思うところを、ああ、そういう人なんだなと思って、受け容れてみてごらん。そして、この人はどうしてこういう人になったのだろうと、彼らの人生を想像してみてごらん。それこそが、子供が親から学ぶことができる人生の真実なんだ。親が子供に教えようとして教えることなんかより、ずっと深くて、ちょっと哀しいものなんだ。

 この本はとても難しい。
 一見、やさしい言葉で書かれてあるけれど、何度もよく噛まないと甘みが出てこない玄米みたいに、じつは幾重にもいろんなものに覆われている。行間も広くて深い。その芯の部分にまで、なかなかじかに触れられない。 
 でも、この一節には心をムンギュとつかまれてしまった。こんな言葉を14歳に向かってまっすぐに書ける人は、まちがいなく大人だ。


14歳からの哲学 考えるための教科書

14歳からの哲学 考えるための教科書