代掻(しろか)きまでたどりつく

 都内に向かう車で、コミックソングの名曲「金太の大冒険」が流れていた。一泊二日の田んぼ作業で疲れた身体に、ふいに笑いを注入してくれた。しかも放送局はNHK-FMで、「コミックソング三昧」特集だった。

 ツボイノリオのこの歌を知っている人ならわかると思うが、肝心な部分で、犬や猫の鳴き声が入るバージョン。局側はそれで放送コードをクリアしていて、そのセンスもふくめて車内は爆笑でつつまれた。ぼくが気に入ったのは、「メッメメェ〜!」の羊と「コッコウ!」の鶏バージョン。

 当日は早朝6時起きで、7時から雑草とりと代掻き作業。
朝の透明感がある青空に、田んぼを取り囲む里山の緑の濃淡が、まさに滴らんばかりに鮮やか。田んぼを気まぐれに吹き渡る風はすゞやかで、カエルの鳴き声にはほっこりする。

 農家さんたちが早起きな理由がよくわかった。
 作業場の風景がきれいで、とりわけこの時期は風も気候も心地いい。グランドキーパーが使うようなキーレを使って、田んぼに水をそそぎながら高低差をならす。下地が固いところはスコップで掘り返し、足で崩しながら、田植えにふさわしいトロトロしたものに変えていく。作業する私たちの傍らを全長2、3センチのアオガエルが悠々と泳ぎ、あるいは跳びはねていく。農薬を使わないから彼らとも共存できる。

 膝下まで水に沈めての整地作業は、太もも、お尻、腰、そして腹筋には絶好のトレーニングになる。最後は田んぼの泥濘(ぬかるみ)に転びそうになりながら、ヌカ袋をまき散らして終了。
 前日は、作業後に焼き肉ジャンケンで盛り上がり、簡保の宿の日帰り温泉で裸の付き合い。ゲストハウスに戻って、「大人とは何か」をテーマに語り飲み、シュラフにくるまっての雑魚寝。

 前日は畑然としていた場所が、とりあえず苗代を待つだけの田んぼに変わり、小さなお祭りを手作りして、オジさんたちの泥んこ遊びはしずかに終わった。