中村佑子監督「はじまりの記憶 杉本博司」〜着想の跳躍力

 水中の印画紙を帯電させて、脳みそや男性の陰茎、あるいは稲妻やミドリムシめいた原始生物めいた画像を焼き付ける。いわば無機物に有機物を出現せしめるという着想だけでもじゅうぶんスゴい。

 それが絵が下手くそだっために写真を発明した人物も、杉本さんと同じ着想を持っていたというシンクロニシティ(偶然めいた必然)に連鎖していく映画の展開がスリリングこのうえない。

 そのうえ、冒頭の有機物めいた画像を、世界各地で彼が撮影した海の水平線などの写真と絡めて、地球における生命の誕生というテーマに昇華させるという目がくらむような跳躍力には、ただただ圧倒されて溺れ死にしそうになる。

「アートこそが、人類にとって最後の生命のインスピレーション」
 彼の言葉は、オマエのいのちをスパークさせることに全力を注ぎ切れという声に聴こえた。