川田修著『仕事は99%気配り』〜立ち戻るべき練習

 王貞治一本足打法を体得するため、畳が擦り切れるほどの深夜の素振りとともに、真剣でわら人形を斬り落とす練習を積んでいた逸話は有名。おそらく、それはボールの芯をきちんと叩くアプローチのひとつで、ある一点に刃先が一定の角度でヒットしないと、わら人形もきれいに斬り落とせなかったからだと記憶している。

 もちろん、わら人形をいくら斬っても、試合でのヒットやホームランとは何の関係もない。ただ、その本質において、試合での打撃とわら人形斬りは、王選手にとって同じことだった。それは一本足打法の原点であり、王選手が必要に応じて何度でも立ち戻るべき練習だったにちがいない。

 先日、その処女作づくりをお手伝いさせていただいた川田さんから、三冊目となる上記の新刊を贈っていただいた。プルデンシャル生命保険のトップ営業マンである彼が、そのお客さんとの出会いの中で学ばれたことを中心に、その仕事術を紹介されている。

 読みながら唸ってしまう箇所はいくつかある。だが、思わず息を呑んでしまったのは第2章にある、ホテルに泊まると、必ず洗面台を自分の使ったタオルできれいに拭いてから帰る、という一文。その理由を川田さんはこうつづける。

 蛇口の周りって、たぶんいちばん拭きにくい場所ですよね。そこがきれいになっていれば、その部屋に掃除に来た人がちょっと温かい気持ちになるかもしれない。
 ただ、そんな理由で拭いているのです。
 もちろん仕事でも何でもないですし、掃除係の人と面識があるわけでもありません。「相手の気持ち」を考えて、ただそうしているだけです。

 川田さんがこれを始めたきっかけは、あるゴルフ場のトイレの洗面台で、すべての会員がこの掃除をしているのを目にしてからだという。読んだ瞬間、これが川田さんのわら人形斬りだと思った。

 人がロボットでない以上、かならず隙間ができる。人に必ず隙間がある以上、人が行う仕事にも隙間が生まれる。テクニックの上達でその隙間を埋めようとする人と、人としての自分の隙間を埋めることを通して、仕事の隙間をも埋めようとする人がいるだろう。

 仕事の隙間に人一倍敏感な川田さんは明らかに後者で、それが誰からも褒められることのない、泊まったホテルのトイレ洗面台の掃除にあることに、おもわず息を呑んだ。

仕事は99%気配り (朝日新書)

仕事は99%気配り (朝日新書)