{ユーロ2012]より良き敗者であるために

 この大会で初めてシャビが、そしてスペインがもっとも輝いた前半45分だった。中盤からボールをつないで、じりじりと敵陣に押し込み、一瞬の縦パスで相手のバックラインを切り裂き、ゴールネットを揺らす。

 2点差を追うイタリアの戦いは、後半開始早々、途中交代で入ったモッタが右太腿の異変で退場を余儀なくされて、10人になった時点で事実上終わった。1週間で3試合はやはりあまりに過酷で、選手たちの身体は動かなくなっていた。

 それでも、弱った牛の眉間に冷徹な剣を突き刺すように、10人のイタリアからさらに2点を奪って、スペインはユーロ2連覇を成し遂げた。残酷さこそが勝利には欠かせない陰影(コントラスト)でもある。
 
 試合後、イタリアの要だったピルロが、悪道バロテッリが目を赤くしていた。それでも今大会でのイタリアは攻守の切り換えが速く、引くときは全員が自陣に戻って守備に奔走し、攻めるときは全員で押し上げ、スペクタクルなゴールを奪う新たな戦いを見せた。

 ドイツとの準決勝での勝利に歓喜するチームメイトに背を向け、関係者の祝福する手をも払いのけて、憤怒の表情で一人そそくさと引き上げた守護神ブッフォン。首から準優勝メダルをかけた彼の、試合前とは別人のような穏やかな表情が、誰もがいつかは消え去っていく時の移ろいの中で、より良き敗者たりうる秘訣をひっそりと明かしていた。