就寝前の筋トレ中に


 
 寝る前の筋トレ中に、テレビで男が歌いはじめた。おもしろいから歌を耳にしながら続けることにした。今でも歌詞が口をついて出るし思わず歌ってる。案外。忘れないもんだね

 あれは17歳のときだった。秋の修学旅行で、なぜか僕は一人でクラスを代表して、彼の歌を大音量で流しながら、口パク、いや声を限り歌っていた。あまりに音程が高過ぎて、声がかすれ、口の中がカラカラに乾いてしまい、歌い踊りながら最後はゲェゲェー言い出す始末だった。ちょっと女の子にモテたかと思ったら、翌日は風呂場覗きと間違われて、天国と地獄を味わった。今振り返ると、苦笑せざるをえないが、笑い話がないよりは、あるほうが楽しそうやん。

 あの頃薄っぺらかった胸は少しは厚くなったけど、体力は当時より格段に落ちているし、近頃は老眼まじりの自分に苦笑させられる。当時ぼんやりと想像していた大人とはほど遠くて、ぜんぜんカッコわりぃ。才能もないくせに好きなことを仕事にして千鳥足でやってきて、前も後ろも相変わらずよく見通せないでいる。

 加圧ベルトで両脚を締め付けながら、スクワットをするとはぁはぁはぁと息があがる。汗が額からしたたり落ちてくる。あの胸が薄っぺらかったガキの自分と、32年後の自分をさっきから心の中でじろじろと見比べている。もちろん、答えなんてない。ただ、下手くそでもカッコ悪くてもいいから、自分なりの歌を今歌えているかどうか。