シンプルの強度①〜〜『アラブ・エクスプレス』展(森美術館 10月28日まで)


(撮影可でした)
 両手両膝を路面につけ、二列でぞろぞろと歩道を進む人たちの行列がいきなり目に飛び込んできた。大人の男たちの中に、10歳前後の女の子が周りをきょろきょろしながらもそれを真似て続いている。他方で、通行人たちが物珍しそうに眺めている。最初はハプニングアートみたいなものかと思った。その行列のせいで、バスまで立ち往生している。

『アラブ・エクスプレス』展の会場入口そばの、縦3m横4m大のスクリーンが、ムバラク大統領(当時)退陣数年前の、エジプトの首都カイロ市内を映し出していた。すると、その行列を先導していた女性が、大柄な男たちに詰問されている映像に切り替わる。

「これの、どこがアートなんだ?」
「こういうことが、我が国のイメージを引き下げることになると思わないのか!」
「貧しい人たちにこういうことをさせて、君は恥ずかしくないのか!」
 女性相手だから暴力は振るわないものの、男たちはどこか殺気立ってさえいる。だが、その苛立ちの意味さえ、スチャラカにはよくわからない。つい先ほどニヤニヤしながら奇妙な行列を見守っていた人たちとは、雰囲気が一変している。

 女性アーティストと男たちのやりとりから、それが「羊たちの沈黙」と題されたパフォーマンスであること、この後、行列を先導していた女性アーティストが1年間も投獄されたことが明かされる。無言の行列による行進は、ムバラクの圧政を一般市民によってカタチを与える表現行為だったことが、そこで初めてわかった。
 シンプルでなおかつ、禍々(まがまが)しくて、ヒリヒリするもの。閉塞感と葛藤と禁忌(タブー)の狭間から噴き出してくるがゆえに、人の神経を逆なでせずにはいられないものが、そこに花開いていた。(つづく)