かたわなじぶん 〜 「アートと音楽」展(都現代美術館)

 不協和音が断続的に流れるスピーカーの真下で4、5歳の女の子は両手をひろげてくるくると回り始め、ベビーカーに乗っていた3、4歳の女の子は、その展示室に入って来るととっさに両耳を押さえて顔をゆがめた。あっ、とぼくは心の中でそう声を上げていた。さっきから白壁にもたれて、その3つのスピーカーから流れる不協和音で満ちる空間の「意味」を、なんとかつかまえようとしていたからだ。東京都現代美術館「アートと音楽」展でのこと。


 苦みという味を学んでいない子供は、それを「まずい」と吐き出すことをためらわない。反対に、苦みを学んできた大人なら、「これがクセになる」とほくそ笑むかもしれない。いずれにせよ、その苦みの「意味」を探そうとはしない。
 心を裸ん坊にして「常識」や「先入観」のハードルを下げ、感受性を少しでも解き放つために正月早々美術館に来ているにもかかわらず、まるで機械のように「意味」を探し、「言葉」になんとか取り込もうとする。2人の幼女の率直な反応を合わせ鏡に、いたたまれないほど不自由になっている心の動かし方を突きつけられた。2013年が始まる。