ファストミュージックの耳

 先日、夫婦でランチを食べに赤坂に出かけ、そこからラフォルジュネ見物に東京駅前に向かった。案の定、丸の内口周辺は、地方から遊びにきた人たちでごった返していた。そもそも、代々木公園で行われていた南米フェスタに出かけるつもりでいたが、当日気が変わって、東京駅に向かったのだけれど、これが思わぬ再会につながる。


 東京からの帰路、見る必要もないラフォルジュネのパンフレットをぱらぱら見ていて、「シエスタ」の文字を見つけた。ぼくらの結婚式でも演奏をお願いしたヴァイオリンとアコーディオンのユニットだ(このブログのアンテナにも彼らのHPがあります)。3日午後2時から、有楽町駅前で無料演奏していたことを知った。ああっ、時間は間に合わなかったけど、今日近くにいたのか―。


 残念がりながらページをめくると、翌4日も午後3時から、さっき夫婦で見学した中央郵便局に隣接するショッピングビル1階で、シエスタの演奏予定が記載されていた。これは神様が会えと言ってるんだと携帯で電話すると、なつかしい潤くんの声が受話器の向こう側で響いた。5年ぶりくらいか。


「この前ね、ある現代音楽家のCDを2000円でダウンロードしてみたら、もう音がぺらぺらで全然聴けたものじゃなくて、びっくりしたんですよ」
 有楽町前から潤くんの愛車で、この後、演奏予定があるという新宿パークハイアットホテルに向かう途中、彼がそう話した。
 じつは、ぼくもG・グールドの『インテルメッツオ』のCDをノートパソコンにダウンロードして自宅で聴こうとしたら、ひどい音質で呆然としたばかりだった。試しにイヤホンで聴いてみると、まぁまぁ響きはいいので、じつは今もそうして聴きながらこれを書いている。


 ダウンロードする音楽は、そもそもCDのデータ量の5分の1ぐらいだという。そもそも雑踏や電車内で、そのうえイヤホンで聴いている人たちは、どんな音質でも音量さえ上げれば気にはならないのだろうか。
 ファストフード、ファストファッション、そしてファストミュージック。手軽で安くて種類は豊富で、いつでも、どこでも買えて便利だけど、紛(まが)いもの。それらに自分の生活と感性がすっかり包囲されていることを、あらためて自覚したい。
アトリエシエスタのHP(クレラップのテレビCMや、宮城県石巻市の復興支援手作りCMプロジェクトなど、コマ撮りアニメーションがかわいいのでご覧ください)。


<手作りCMプロジェクト:林屋商店>