大阪ホルモンブギ〜御堂筋線・西中島南方「あらた」

 大阪出張前のある日ふと浮かんだ本のタイトルが『悶々ホルモン』。佐藤和歌子さんのホルモン食べ歩きエッセイで、その抜群のタイトルが妙な鮮烈さで、頭にこびりついていた。
 思い立ったが吉日と近くの本屋に出かけたら、文庫本の棚ざしでいきなり発見。しかも5月の新刊だ。これはホルモンの神様のお導きと確信する。しかも、その本で紹介されていた唯一の大阪のホルモン屋が、宿泊予定のホテルの最寄り駅から3駅目近くの「あらた」だった。


 その詳細は、佐藤さんの本を参照してほしい。初日の取材を終えた後、50分近く店前で粘り、カメラマンと2人で入店。瓶ビールと、料理はお任せでと注文して最初に出された煮込みにヤラれた。それぞれの部位が絶妙の柔らかさを残して口の中で弾けた。ホルモンの煮込みというと、味噌仕立てのもつがポピュラーだが、ウムッ!とうなることは滅多にない。だが、「あらた」の煮込みは胃袋を鷲づかみにする。煮物、焼き物、生、タタキと、ホルモンのフルコースで、コールタンやハツの串焼きも旨かった。だけど、最初の煮込みの驚きには及ばない。最後はテールスープ仕立ての雑炊でしめて7800円。


 常連さんが多いこの店は、お客と店主の会話も軽妙。「ほんまにいつもドでかい声やなぁ」「わかった、ほんなら3分の2に音量しぼるわ」「いや、3分の1やな」「あれ、・・・・全然しぼってへんやん」。今度は、お客の求めでラジオをつけるとすでにしっかりチューニングされていて、阪神ダイエーの試合中。阪神が負けているとわかると、店主は「また負けとるわ」と、いきなりスイッチを切る。ふふふふっ。


 「マスター」と呼ばれる店主と、その奥さん風の「おかみさん」の、厨房内での緊張感の高いやりとりも一聴の価値あり。カウンターだけの店内で、その場所によって担当範囲が決まっているのか、あるいは、お客の注文を受けた分が各自の担当なのかはよくわからないが、お客さんの皿を空いたままにしないことが、お二人の暗黙のルールらしい。「ほら、◯番さん、料理出てないで!」の叱責が何度も飛び交う。
 ぼくら同様、ご新規の男性客が見かねて、「ゆっくりでいいですから」と声をかけると、店主がすかさず「そんなんいくら言われても、目の前のお皿が空やったら、こっちはそうはいかへんわ」と直球返事。ええなぁ、この猥雑でせっかちで、衒(てら)いのない世界に万歳!