「始末」ということ〜特集「京都に行きたい」(dancyu11月号)


「使い切れなかった野菜や切った後の残ったものを使って、家で簡単においしいお漬物をすぐにつくることができて、始末と楽しみの両方あるのになあ」
 京都・錦市場老舗青果店『四寅』の女将さん・堀紀子さんの言葉。今売られている月刊『dancyu』11月号の「極めて京都的な漬物の話」という小特集に出てくる。この「始末」という言葉が目に留まる。彼女はこんなことも話している。


「野菜って捨てるところがないから、葉っぱでも芯でも残ったものは、軽く塩をして糠床(ぬかどこ)に漬けます。ごぼうや茗荷、セロリ、キャベツ、生姜、どんな野菜も糠に漬けると、味が凝縮して生とは違うおいしさになるんです。1週間ほど置いて古漬けにして、糠を洗って刻んで混ぜ合わせると、お酒のつまみにもご飯のおかずにもいい一品になります」


 この言葉を目から鱗(うろこ)と感じる一方で、5月末に怪我をしてから冷蔵庫で眠りっぱなしの、わが糠床のことが脳裏をかすめる。はずかしい。いてもたってもいられなくなり、冷蔵庫に残っているキャベツを始末しようと、味噌汁を作ることにした。


 昆布を水にひたし、キャベツを刻んで水につけ、シャキッとさせるために氷を入れる。しばらくしたらザルに移し替えて水気を切る。その間に冷凍してある油揚げを出して解凍しながら、生姜を削っておき、先月、知人夫妻からいただいた手前味噌を取り出す。


 2013年産と2012年産があり、12年産のほうは発酵がすすみ、八丁味噌かと見まがうほどに赤くなっている。どちらの味噌も、市販のものとは明らかに違い、新鮮でまろやかな匂いが鼻をくすぐる。今日は12年産のものを漉(こ)す。ひと手間かければ、う〜んまい味噌汁ができあがる。あとは炊きたてのご飯があれば、頬がにんまりゆるむ食卓の土台はととの(整)う。


 ただのグルメ情報だけでなく、テーマ料理の具体的な作り方や、漬物を通して「始末」の豊かさをプロにきちんと語らせるところに、最近のdancyuの充実がある。そして雑誌の数行の記事に、突き動かされたぼくの幸せも。


 すべてを消費で片付けてしまうと、人は気づかないうちに物事が見えにくくなっていく。キャロル・スクレナカ著・星野真里訳『レイモンド・カーヴァー 作家としての人生』(中央公論社)を1時間読むことと、手前味噌を使い30分かけて味噌汁を作ることの間に優劣はない。相変わらずの素人(しろうと)仕事ながら、無農薬のお米づくりを4年間つづけてきて、心と身体で習得したことをついつい忘れてしまいそうになる秋の夜。


dancyu (ダンチュウ) 2013年 11月号 [雑誌]

dancyu (ダンチュウ) 2013年 11月号 [雑誌]