ハングンマル〜言葉は根雪みたいに降りつもる

「クゴ、ピンゲ ジ(それって言い訳だろ)」
  なつかしい友人相手に思わず口をついて出た言葉にハッとして、「ピンゲ」が「言い訳」を意味する韓国語であることをぼくははっきりと思い出した。おそらくソウルで暮していた、まさに30年近く前以来、自分の口からひさしぶりに出た言葉だった。


  昨日、ソウルから友人夫妻がやってきた。彼がチームドクターの一員として関わっている、韓国のあるアイスホッケーチームの日本での試合に同行しての来日。その試合が行なわれている西武新宿線東伏見へ、2組の夫婦で向かうタクシーでのことだった。その昔、暮らしの中でかの地の人たちとやりとりした言葉が(もちろん忘れた言葉も多いのだが)、自分の内側のどこかに根雪みたいに、たしかに降りつもっていることを体感した瞬間だった。


  しかも、その友人夫妻とは、先週の月曜日にソウルで15年ぶりの再会を果たしてもいた。じつは去年11月頃、友人のミンホからフェイスブックにメッセージが届いた。ヒマな時間に昔の友人達を検索していたら、偶然、ぼくの名前を見つけてくれたらしい。それをきっかけに、スカイプで1時間ほど愉快に語り合い、その時点で2月1日に彼が奥さんと1泊2日で東京に来ることはわかっていて、再会を約束してもいた。


  すると、その後、ある月刊誌で人生初の韓国取材が決まり、先週ソウルで15年ぶりに旧交をあたためることができた。しかも彼の母校の教授まで紹介してもらうという、取材のアシストまで果たしてくれて、だ。
 15年ぶりに2週間つづけて、しかもソウルと東京でそれぞれ再会するなんて、人生の中でそうはない。


  ミンホの努力の賜物であることは間違いないし、彼にもその感謝の意は伝えたのだが、もう、これは運命だったというしかない。ちなみに韓国語の字面としては「ハングルマル」なのだが、「グル」の子音「R」が、次の「マル」の子音「M」とリエゾンするために、発音は「ハングンマル」となる。