マラソンの要素を4分割する〜岩本能史著『違う自分になれ!ウルトラマラソンの方程式』(講談社)

 朝から降り続く雪を時折見ながら、今日は原稿をちんたらちんたら終日書いていた。その休憩時間に残りを読み切ったのがこの本。
 米国カリフォルニア州を舞台にした全長217kmを60時間以内(2010年当時)で走るウルトラマラソン「バッドウォーター」に合計4回挑戦したドキュメントは圧巻。しかも3つの山脈を越える累計標高差は約4000m、最高気温は摂氏56・7度と気違いじみている。


 だが、この本がぼくにとってグンと面白くなるのは、むしろ巻末。まさに今日読んだ、岩本さんがウルトラマラソンの経験を、フルマラソンに挑戦するアマチュアランナーの練習法にフィードバックする部分。


 マラソンに必要な鍛えるべき要素を、彼は4つに分割する。推進力・心肺機能・素早い動き(フォーム)・着地時に酷使される前腿。彼はこれを峠走の練習で鍛える。13kmの上り坂では推進力と心肺機能を、13kmの下り坂では素早い動きと前腿を、それぞれバランスよく鍛錬できる、と。は〜っ、こ、こ、こんなこと、今まで考えたこともなかったっ、たっ、た。

  重力があるから、下り坂は簡単にスピードが出ます。スピードが出ているから着地の衝撃はものすごいものがあります。10キロも下れば、フルマラソン以上のダメージが腿にきます。フルマラソンの翌日と同じで、筋肉痛で階段が下れない状態になります。わずか10キロで疑似マラソンができるのです。しかも、ダメージを受けるのは前腿だけで、他はダメージを受けません。
  レース1週間前の日曜日にダウンヒル走をやれば、月火水で痛みがとれて、木金土で筋肉は超回復して、レース当日の日曜日には生まれ変わった強い脚ができている、というのがレース1週間前のダウンヒル走の目的です。


 さすがに、ぼくみたいなヘボランナーは、1週間で生まれ変わることはできそうにないが、その考え方自体はじゅうぶんに応用できる。


 下手に平坦な30キロを走るより、上り下りが長い皇居の周回5kmを3周、まず自分のフルマラソンのペース、次はそれより1分早く、最後の3周目は1分30秒早くで、15kmを走るほうがはるかに効率的な練習になる、と岩本さんは書いている。これは3月始めの30km、そして23日のフルマラソンの練習にさっそく取り入れてみたい。その先に6月の60キロ挑戦が待っている。