ちっぽけな祝祭〜近藤篤 写文集『ボールピープル』
- 作者: 近藤篤
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/05/29
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (5件) を見る
バカみたいにだらだらと走った翌日。五月晴れのうららかな窓外の光景を尻目に、日がなコツコツとキーボードを叩きつづける。こんな地味な日のアクセントは、ソファで好きな文章と写真を味わうこと。そこから元気を分けてもらって仕事にもどる。
「文句があるなら 死ぬほど愛してから言え」
このコピーが、グリングリンした芝生を中央に据えた、超満員の埼玉スタジアムの俯瞰写真に添えられている。サッカーに関する写真と文章で構成されているが、登場する大半はふつうで、無名で、サッカーという祝祭(カーニバル)が大好きな人たちの話たち。着眼点がすこぶるいい。
その文章が生まれた場所は、バルセロナのホーム「カンプノウ」から、モロッコのフェズやアルゼンチンのブエノスアイレス、赤道ギニアの首都リーブルビルや「3・11」の被災地にまで至る。けっしてサッカー場とはかぎらず、ただの砂浜や路上、街頭、小汚いホテルの一室だったりするが、みんなゲームやボールと戯れている。
考えてみると、オレ自身サッカーに助けられたのは2回目と、被災地のジュニアクラブの指導者(36歳)は話す。1回目は、彼が頸椎ヘルニアで下半身が動かなくなったとき、当時まだ保育所にいた息子がサッカーやりたいといい始めたので、じゃあもう1回元気取り戻してボールが蹴れるようになるぞ、と思ったとき。
で、今回もやっぱりまたこうやって、うりゃーって、わらす(童子)らと。ですんで、オレからいわせれば、サッカーってもんはすげえでっけえもんで、おれはそれをもう最後まで貫くつもりでいますけどね。
なんともちっぽけな祝祭、そう苦笑する人がいるかもしれない。だが、ちっぽけな祝祭さえ持てていない人のほうが大多数だから、彼はすでにサッカーに”選ばれし人たち”のひとり。
有名選手たちが大観衆の下、華やかな脚光をあびてプレーする壮大な祝祭も、ふつうで無名だけど、圧倒的な大多数であるちっぽけな祝祭によって支えられている。