泥こんこ遊び


    ふと手を止めて水面の左上を見ると、トノサマガエルが水面から両目だけを出して、あらぬ方向をじっと凝視している。微動だにしない。その脇を藍色のシオカラトンボが悠然と横切っていく。泰然としたカエルを少し脅かしてやろうかなと思う気持ちを抑えて、雑草とりを再開する。天候は曇り、暑くもなければ湿度もさして高くない。田んぼの雑草とりには最適な天候で、先週末がこんな感じだったらなぁと少し思わないでもない。


    上の写真を見てもらうと、右端や左端に高く伸びた4、5本の青草がある。それがお米をつけてくれるだろう苗で、それ以外の水面から少し伸びたものが数種類の雑草群。田植えから3週間目だ。
    手のひらを熊手のようにして上から差し入れ、でくるだけ雑草の根っこまできれいに取り切る。ずっと腰をかがめて1時間、2時間と淡々とつづける。下半身のいいトレーニングにもなる。街中では「無農薬米」はひとつの「ブランド」だが、田んぼではこんな地道な労力を費やした末の成果でしかない。


    3時間ほどで除草は終えて雨で緩んだ畔部分の修復と、左隣の田んぼの畔からの漏水を止める作業。畔の修復は、先に田んぼから除去して畔に放り投げた雑草と土の固まりを敷きつめ、その上から掘った土をかけて足で踏み固める。それを3回ほど反復して、いわば雑草と土のミルフィーユにして補強する。
    それは前年に収穫した稲藁をビニールシートで覆って乾燥させて刈り取った稲を束ねるように、田んぼに生まれるもので捨てるものがない。人の生活よりはるかに無駄がない。


    漏水は、水が漏れている反対側の畔を手でまさぐると、モグラが空けたらしい穴がそれぞれ二カ所ずつ見つかった。そこにも、雑草とりで畔に投げた草と土を使ってねじ込み粘土質の土でふさげば、わりとすんなりと止まった。水が漏れている場所と畔の穴がかならずしも同じ場所と限らず、苦労することも多いのだけれど、この日の2カ所はいずれも簡単に見つかった。東京は終日雨だったようだが、千葉県匝瑳市は曇りから晴れ間が覗き、夕方までは一滴も降られなかった。おじさんの泥んこ遊び終了。