男前サックス〜BLACK WAX (渋谷「WWW」)

   ここで昔、映画『バグダッドカフェ』を観たなぁ。あれ、誰と来たっけ?
   BLACK WAXの演奏に身体を揺らしながら、一瞬そんな感傷にとらわれて、渋谷シネマライズ地下の天井をぼんやりと見上げた。そこが今や「WWW」というライブハウスになっていたことも、初めて知った。今週の月曜夜のことだ。


   すると、ゲストの梅津和時さんが登場。あれっ、この聴き覚えのある前奏は、と思っていたら「ソング・フォー・マイ・ファーザー」が始まり、背中がぞくぞくっとした。ホレス・シルバーの名曲で、ビーバップジャズの中でも大好きな作品だから。
   サックスの巨匠・梅津さん相手にも何らも臆することなく、マリノのサックスが疾走する。じつはサックスが女性だというのも、この日初めて知ったのだけれど、泣きも、メロウも、ダンサブルも何でもござれで、その骨っぽくてキレのある吹きっぷりがカッチョイイ。


   メンバー全員が宮古島出身で沖縄民謡っぽいジャズナンバーもあり、濃厚な青空とそこを吹き抜けていく南国の風を連想させてもくれる。そのタイトルが「アフロ」というのもイカしてる。
   目の前では白髪の175センチはありそうな大柄な男性と、20代の155センチほどの女性2人連れの背中がそろって右に左に揺れている。気がつくと、会場は400人ほどはいて満員に近かった。


   そもそもは日曜夜、ピーター・バラカンさんのFMラジオを聴いていたらゲストでBLACK WAXが出ていた。放送で流れた曲を聴いてビビッときて、この夜のライブ予定を知り番組中にネットで申し込んだら、さっきの「ソング・フォー・マイ・ファーザー」との邂逅(かいこう)なのだから、こんな直感の至福はめったにない。