この映画を日本人が笑えない理由 (オリバー・ストーン監督『スノーデン』)

 思わず息をのむ。ルービックキューブがきれいな放物線を描く一瞬に、この映画(エンターティメント)が凝縮されているからだ。
 オリバー・ストーン監督が自らあの男に会いに何度もモスクワへ出かけたという記事を読んで観に出かけたが、男がなぜ米国の国家機密を持ち出すに至ったのかという経緯が丁寧にたどられていて、よくわかった。


 情報を取りたいターゲット人物を見つけたら、国内外にかかわらず、その家族や親族、友人や知人などのメール・ブログ・フェイスブック・インスタグラム……、ありとあらゆる情報を調べ上げて弱みをつかみ、それを利用してターゲットに近づいてコントロールする。
 そんな「情報ヤクザ」めいた手口を米国のNSAやCIAが職務として行っている事実に愕然とした男は、国家のために働く自らの職務に疑念を抱くようになる。男が妻のノートパソコンのカメラにテープを貼り付ける場面もリアル。男の名前はエドワード・スノーデン。元NSA、CIA職員で実在の人物だ。

 
 時まさに、日本の国会でも「テロ等準備罪」と新たにラベリングされた共謀罪法案が審議中。この映画と同じことが、「オリンピック成功のために」というプロバガンダ(誇大宣伝)の下に、与党多数の状況下で強行採決される雲行きにある。この法案がないと「東京五輪は開けない」とまで強弁(詭弁)して何ら恥じないリーダーは、先の映画以上に恐ろしい。


 「疑わしきは罰せず」という刑法の原則をヒョイと飛び越え、政府が「よからぬことを相談していて疑わしい」と判断すれば、誰でも、自由に逮捕できる法律だから。沖縄の普天間基地移設の反対デモでも、国会前のデモでも全員簡単に逮捕できてしまう。理由は簡単、わがリーダー閣下にはどちらも耳障りだからだ。いや、デモに限らない。逮捕基準はきわめてあいまいだから。もちろん、こちらは映画(フィクション)ではない。


 本日3日付け東京新聞には「共謀罪」法案反対声明に賛同した刑事法研究者142人の名前が列記されている。呼びかけ人の高山佳奈子京都大学教授(刑法)は、同法案が歯止めのない捜査権の拡大につながる危険性を指摘した上で、「一般市民の普通の生活を取り締まり対象にしうるような法律が作られようとしていることを、広く知らせなければいけない」とコメントしている。