つややかな緑色の流線型

 万願寺唐辛子と獅子唐(ししとう)がほぼ似たような、小ぶりな白い花を咲かせるなんて知らなかった。どちらも花が枯れた箇所から大小の艶やかな緑色の実をふくらませることも、プチトマトはその茎も葉っぱからもあの濃厚なトマトの匂いがするなんてことも、だ。
 結局は何も知らないまま、いや、何をどう知らないかさえわからないくせに、「もう何でも知ってんだぜオレは」と少しつまらなそうな顔で錯覚したまま、ぼくは老ぼれて死んでいくしかない。肉厚な万願寺唐辛子や、酸味と甘みのバランスがいいプチトマトがこっそりとそう教えてくれる。


 万願寺は辛くない品種なので、茄子と一緒にサラダ油を多めにひいたフライパンでしんなりするまで炒め、大量の生姜と適量のニンニクをすり下ろしたポン酢につけて煮浸し風にする。少々オイリーだけど茄子はうまいし、万願寺の肉厚な実は歯ごたえがいい。獅子唐は軽く網焼きして、味噌や酒、みりんや砂糖、すりごまと一緒に混ぜて水分を飛ばしながら炒める。かなりピリピリ辛くて数日すると味噌にも辛味がついて玄米や煮かぼちゃ、納豆にも合う。
 地道な水やりとプランターの土と日光でふくらむ唐辛子のつややかな緑色の流線型と、週2回ほど走りながら心臓がドクンドクンする自分のいのちが、朝の狭っちいベランダできれいに交差する。