ちいさな虹めいて


 この夕暮れにふさわしいBGMは何? そう尋ねると友人Oがスマホで聴かせてくれたのが、きのこ帝国の「金木犀の夜」。数日前にFMで流れてきて耳に留まったらしい。20代の長女にLINEで知らせたら、約2日後に「スピッツみたいね」と返信が来たらしい。ええ話や。京浜急行三崎口」駅からバスと徒歩でたどり着いた、相模灘に突き出た城ヶ島公園の南端へつづく道すがらだ。

 電話番号を思い出そうとしてみる
 かける  かけない
 逢いたい 逢いたくない
 いつのまにか ずいぶん遠くまで来てしまったね  


 黒々とした岩場に寄せては返す波頭と、揺れる心情をすくい取った歌詞がぴたりと呼応していた。50代半ばのオジサンにはミスマッチな曲だが、少女っぽい抑制されたボーカルと失恋の歌詞、夕暮れと人生の黄昏、そして反復する波頭の調和がちいさな虹めいていた。


 沖縄から研修で上京したOと、都内在住のTを誘っていた。雨が続いていた谷間でようやく晴れた28日のこと。その歌を流しながら3人で、夕陽をまんじりともせずに見つめた。まぐろ料理とこの夕陽だけが目当ての小旅行。だらだらで、スカスカで、ぐだぐだの時間。

 どうでもいいフリしても
 君が好きなアイス見つけて
 深夜のコンビニで急に引き戻される
 消える  消えない
 泣きたい 泣きたくない
 いつかきっと笑って話せる日が来るって本当かな   


 翌朝、午前5時頃からOと天井を見ながら約2時間うだうだ話をして、朝食をとりに出た。JR大崎駅前の下りエレベーターに乗った瞬間に昨夕と同じ歌が流れて、二人で息をのんだ。曇天からぱらつく雨が静かなドラムめいていた。