2011-01-01から1年間の記事一覧

哀悼の意

[日誌]杉原輝雄さん逝去 「でも、距離が出えへん」 早朝の暗闇の中で杉原さんが低くつぶやいた一言が、その訃報を知って、ぼくの耳元で鮮やかによみがえった。 もう六、七年近く前のことだろうか。午前6時すぎ、朝の日課である愛犬を連れての散歩とジョギン…

池田晶子著『死とは何か さて死んだのは誰なのか』(毎日新聞社刊)

王様は裸だ!――そう口走る少年や少女の登場は今も昔も痛快だ。たとえば、故・池田晶子はこんなふうに斬り込む。 臓器移植法は「臓器移植する場合に限り、脳死は人の死」と決めました。同じ脳死の人でも、臓器を提供する人は死んでいて、提供しない人は生きて…

ファミリーマートで

最寄りの地下鉄の駅で下り、奥さんに頼まれていたタバコを買うために、コンビニに寄る。入口近くにタバコのディスプレイが見えたので、何も考えずに入口近くのレジ前に立つ人の後ろに並んだ。で、前の人が会計を済ませて、ぼくの順番かと思った瞬間だった。 …

坂本義和「3・11と日米開戦70年」(東京新聞12月8日付け朝刊11面)

「福島第一原発事故でも『原子力ムラ』という言葉が使われています。ムラは集団です。だから事故が誰の責任なのか分からなくなる。また分からなくするのです。決定権をもつ者の責任を問わない民主主義はあり得ません」 国際政治学者・坂本義和さん(84歳)の…

下総神崎の駅で

「もうお帰りですか」 3泊4日の取材を終えて、駅舎でボーッとしていると、顔見知りの女性から声をかけられた。わたしが3日間泊めてもらっていた知人宅に、毎日いろんな食べ物持参で出入りされているご近所の方だった。いつも色艶のいい色白の笑顔と朗らか…

長田弘著『すべてきみに宛てた手紙』(晶文社)

作家として立つ前の白洲正子さんが、骨董鑑賞の師だった青山二郎に、自分の書いた文章を見せたところ、青山が「これは君の一番言いたいことだな」と言いながら、そこに線を引いては添削していった、という逸話が思い出された。 手紙の文体でつづられた長田弘…

小泉今日子の「複雑」

ひょいっと駅で抜き取ったタブロイド紙に、小泉今日子のインタヴューが載っていて、読みすすむうちに次の箇所で止まってしまった。 子役って泣くのがうまい子が多いけどなぜかなって、先日、古田新太さんに話したんです。そしたら古田さんが『子どもはまだ感…

重森三玲「北斗七星の庭」展(ワタリウム美術館)

art

「伝統は学び尽くした後で、きれいに捨てなければいけない」 「間違っているとは、ひとつの常識の中での話であって、その常識の外では間違っていないかもしれない」 「技巧を学んだ末に、無技巧で表現しなくてはいけない」 全国各地の三玲の庭のスライドを観…

砂田麻美監督『エンディングノート』

父親の営業口調(?!)を真似たかのような、「私、○○○でございます」調のナレーションが、作品に適度な距離感をあたえると同時に、乾いたユーモアで作品を包み込んでもいる。この映画がもっとも成功している点。 定年後の新生活を始めたばかりのサラリーマンの…

「たまにはtsukiでも眺めましょ」(JR池袋駅西口)

開店前の取材から、久しぶりに深夜まで「たまつき」で過ごしてきた。全14席の店だが、テーブルとカウンターでそれぞれ話していた人たちが、店主・高坂さんの紹介でふいにつながり、話に花が咲く。 この日も、高坂さんの本を読んできた人が三人。それぞれが…

青梅へ向けて

Run

走りだして2分もすれば、その日の身体が軽いか重いかがわかる。今日の夕方、風は冷たくて強かったが、身体はすこぶる軽かった。先の日曜日とはまるで他人の身体みたいだ。たぶん、前回90分走ったのが身体に効いているんだな。長い距離を走ると、その次に…

藤原新也『書行無常』展

art

その写真集のあとがきに目がとまる。 文章は書くものではなく、打ち込むものになったという視点から、デジタル情報に包囲される中、アナログな手段として筆をとり、書道と写真とのコラボレーションに至ったという趣旨が書かれていた。福島・インド・そして上…

無農薬米32キロ収穫の巻

6日(日)、先に仲間が脱穀してくれたお米を玄米にするために、農家さんに籾ずりをお願いした。結果、去年の半分の面積の田んぼから、去年より少し多いお米を収穫できた。だがコシヒカリの食味は、去年に比べるとやや落ちる。 大きな要因は、今年新たに開墾…

NHK朝ドラ「カーネーション」

TV

「その服、おまえがそのまま着て行け。そっちのほうが、おもろい」 小林薫演じる父が、長女の尾野真千子に言うシーンで、ひさしぶりに「おもろい」を聴いた。懐かしく思うと同時に、ハッとさせられた。 まだ百貨店の女性店員の衣装が着物にエプロンだった時…

[book}見城徹・藤田晋著『憂鬱でなければ、仕事じゃない』(講談社)

ジャズと同様、仕事でも大事なものはスイングだと僕は思う。 仕事とは”正”であり、憂鬱とは”負”である。その両極をスイングすることで、はじめて結果が出る。まさにスイングしなければ、意味がないのだ。 ちょっとした偶然から読むことになったこの本のあと…

山内令南著『癌だましい』(文藝春秋)

読み終えたとき、ロシアのマトリューシカという人形が思い浮かんだ。開けても開けてもより小さな同じ人形が出てくる、あれだ。 小説は身も蓋(ふた)もない。祖母や両親を次々と癌で失ってきた、40代半ばの独身女性が食道癌を発症する。彼女の唯一の趣味は…

NHK日曜美術館「トーゥルーズ=ロートレック展」(東京・三菱一号館美術館12月25日まで)

art

ただ白一色ではなく、その隣に黒をおくことで白が白としてより輝く、ということがある。同じように、人物を描くときにどこに、どんな陰影をつけられるかで、その説得力がまるで違ってくる。 ロートレックというと、あの少しイラストチックな派手な絵柄がまっ…

発酵文化応援団(亀戸)

16日に日比谷公園で行われた「土と平和の祭典」で、NPO「トージバ」代表の渡邉尚さんと久しぶりに再会。いきなり都内から宮崎へ移住した話をしっかりと聴くために、この日、引越し準備を進める彼を、亀戸に訪ねた。 で、彼に連れていってもらったのが、発…

クラシタという肉牛の肩あたりの部位は、なんだか肉の中トロめいた脂肪の入り具合で、ちょっと驚いた。ハラミのボリューム感とくらべると、より繊細で上品な味わいがある。稲刈り後に出かけた、千葉県旭市の焼肉店「今久」の裏メニューのひとつ。裏だけに一…

開墾デイズ(稲刈り&おだ掛け)

ひょろっと長い緑色の茎と、黄金色の実。稲一本はおどろくほど頼りなげで、よくもまあ雨風にも負けず、頭を垂れるほどの実をつけたものだと、あらためて思う。しかも、一年前はただの野ッ原だった場所だ。そこに去年とは違う驚きと喜びがある。今年は雑草が…

丹羽順子著『小さいことは美しい シンプルな暮し実践法』(扶桑社)

ぼくにとってのこの本の肝は、以下の部分にある。 何が楽しいか、大げさに言えば、それは「自分たちの生き方を、自分たちで決める」というやりがいです。結局、今の問題は衣食住に関わるすべてのことをほかの場所に「丸投げ」してしまっていることだと思いま…

原発事故と水俣病

8日付けの東京新聞朝刊の「こちら特報部」面。水俣病の発見と治療に尽力した原田正純医師へのインタビュー記事が掲載されている。 原発事故も水俣病も根幹には、「豊かな暮しを支える技術革新のプラス部分だけを求め、マイナスを社会的弱者に押しつける」と…

40歳以上の日本人男性はいらない

日経ビジネスオンラインで、こんな表題の記事を見つけた。大型SCを展開する企業の人事担当者の率直な話をもとにまとめられている。ああ、やっぱり、そっちだよなぁと思う。近頃の円高と、高齢化と少子化の同時進行、そして構造的な不景気を考えたら、大企業…

丹羽順子著『小さいことは美しい シンプルな暮し実践法』(扶桑社)

「小さいことは美しい」 シンプルな暮らし実践法作者: 丹羽順子出版社/メーカー: 扶桑社発売日: 2011/09/01メディア: 単行本この商品を含むブログ (1件) を見る 丹羽さんから初めての著書を送っていただいた。一筆箋で簡潔だけれど、誠実な人柄が薫る御礼が…

佐野元春『欲望』がシンクロする島国

かなり以前に生まれた歌が、ある時代の、ある時期の世の中の空気にピンポイントで突き刺さる。そんなことがあるんだぁと、テレビで佐野さんの『欲望』を聴きながら思ったら、ふいに涙腺が熱くなった。佐野さんはこんなふうにシャウトしていた。 これからどこ…

東福寺方丈庭園の北斗七星

10日の霊雲院につづいて、方丈庭園についても書いておきたい。霊源院が雲と川を同じ平面に共存させたとすれば、北斗七星を庭に取り込んでみせたのが方丈庭園の東庭。 しかも昔、東司(トイレ)として使われていた柱石をリユースして、その長さに長短をつけ…

望星9月号に拙記事掲載

本日発売の「望星」9月号に、「”減速生活者”たちの3・11」(前編)が掲載されています。福島県二本松市の有機農家を2泊3日で訪ねたルポです。ご興味があれば、ご笑覧ください。

臥雲の庭(京都・東福寺「霊雲院」)

ただただ、ぼーっとしてみる。 動かない枯山水の庭を ぼんやりとながめ、風にゆれる青竹や松の葉ずれの音に耳をすまし、ゆったりと流れる雲を追いかける。縁側に止まる蝿をまんじりともせず見つめていると、夏の獰猛な日差しとは相容れない、なんともさわや…

花火とジェラート、七夕とミートスバ

昨日は夕食後に神宮の花火を観に出かけた。理由はシンプル。当日の新聞に、四谷三丁目から信濃町に向かう道路沿いに、「ジェラテリア・ラ・ナポリ」が紹介されていたから。たぶん、神様の声だった。 白凰という桃はフレッシュジュースから作ったかのような上…

すくすくゴーヤ

ゴーヤの黄色い花があちこちで日毎咲き、蜂や蝶々がその蜜を求めて、うちのベランダにやって来るようになった。小さな生態系がうまれている。その傍らで、一番大きなゴーヤは、全長17センチに育った。もうひとつは15センチ大。最初のは20センチで収穫…