NHK朝ドラ「カーネーション」

「その服、おまえがそのまま着て行け。そっちのほうが、おもろい」
 小林薫演じる父が、長女の尾野真千子に言うシーンで、ひさしぶりに「おもろい」を聴いた。懐かしく思うと同時に、ハッとさせられた。


 まだ百貨店の女性店員の衣装が着物にエプロンだった時代。彼女は自分の考案した洋服を着てもらおうと、ある百貨店の支配人のもとに何度も押しかける。当初は洋服のデザイン画を持参していたが、そのうちに自ら生地を買って作った洋服を、風呂敷に包んで持って行こうとする。その長女に、父が冒頭のセリフを口にする――。


 ファッションデザイナーのコシノ三姉妹を育てた母親を主人公にした物語。舞台はだんじり祭りで有名な大阪府岸和田市だ。父親が言う「おもろい」には、二つの意味合いがある。
 まずは、文字通りの「面白い」、あるいは「奇抜だから相手に強い印象を与える」。もうひとつ、その裏側に「そのほうがお前も面白いだろう」、「お前も面白がれるだろう」という励ましが添えられている。


 この「おもろい」を大切にする大阪の文化は、「いかに日々を面白がれるのか」という心意気と分かちがたく結びついている。だから、「おもろい」と言われることは、大阪人にとって最上級の賞賛となる。そして「おもろい」ことを言うヤツや、「おもろい」ことをやってみせるヤツに、大阪人が口にする「あいつ、アホやなぁ」には、時に畏敬の念が少なからず込められていたりする。「おもろい」が、あるいは「アホ」が、ふいに「カッコエエ」に変身する。


 あの土地で生まれ育った以上、できる範囲で、自分で自分を面白がる精神を忘れてならない。仮に右と左、二つの分岐点に立ったとき、大変そうでも、より自分がワクワクしそうなほうを選びとる心意気を失ってはいけない。夫婦で朝ドラを観ながら、あらためてそんな初心に引き戻らされた。