どん底は強い

夫のちんぽが入らない (講談社文庫) 作者: こだま 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2018/09/14 メディア: 文庫 この商品を含むブログを見る 劣等感は度を越すと笑える。本人はもちろん、他人も笑い飛ばせる。 表題通りの女性が主人公の、この陰々滅々とした…

『粋な夜電波』ロスの夜

菊地成孔の粋な夜電波 シーズン1-5 大震災と歌舞伎町篇作者: 菊地成孔,TBSラジオ出版社/メーカー: キノブックス発売日: 2017/10/21メディア: 単行本この商品を含むブログ (9件) を見る マンションの玄関周りを年末に掃除しながら、菊地成孔『粋な夜電波』の…

紅白に2人で出てほしいねん! 椎名林檎&宮本浩次「獣ゆく細道」

しびれにシビれた。テレ朝「ミュージックステーション」の椎名林檎と宮本浩次のコラボ。昭和モダン風な椎名の楽曲の手のひらで、変テコとシュールの境界線を突っ切るような宮本のダンスが見事。草食の時代に「獣」という言葉を歌で投げ込む椎名の感性と、宮…

ちいさな虹めいて

この夕暮れにふさわしいBGMは何? そう尋ねると友人Oがスマホで聴かせてくれたのが、きのこ帝国の「金木犀の夜」。数日前にFMで流れてきて耳に留まったらしい。20代の長女にLINEで知らせたら、約2日後に「スピッツみたいね」と返信が来たらしい。ええ話や。…

共感できないからこそ、理解しようと思考する〜「今、何かを表そうとしている10人の日本と韓国の若手対談」(クオン)

日本で韓国文学を出版するクオンによる、日韓文化人対談集がとても読み応えがある。本質的な部分で共鳴と共感があり、同じ時代に何かを表現する人たちの吐息と熱が行間の隅々に息づいている。韓国の映画や文学、建築や写真などを日本人との対談を通して発信…

「夜のメロディ」〜曽我部恵一詩集

この詩集の中で一番のお気に入り。「ねぇ」「もう」「そう」や、「からっぽ」や「ひらひら」と言ったひらがなのリズムが、艶っぽさと切なさをそこはかとなく漂わせて、二人の揺れうごく心象風景を切り取っている。

ゆく夏を見とどける歌

サニーデイサービス「アビーロードごっこ」(スローライブ 池上本願寺1日目・8月31日) 初めてのくせに、もう病みつき寸前のジェットコースターみたいだ。スローライブ池上本門寺初日。3番目のトリで登場した、お目当てのサニーデイサービスの1曲目から…

著者の「わおっ!」に耳を澄ます だから、また行きたくなる。 伝説の外資系トップ営業が教える「選ばれるサービス」の本質作者: 川田修出版社/メーカー: ダイヤモンド社発売日: 2018/07/05メディア: 単行本(ソフトカバー)この商品を含むブログ (1件) を見…

「ウメジャン」ファンク

「梅じゃね?」でもなければ、「梅じゃん!」でもなくてウメジャン。梅雨入り前後に出回る青梅を、この5年ほどジュースとジャムにしている。夏バテ防止用で、その作業時期を「ウメジャン」と勝手に呼んでいる。学生時代に1年間暮らした韓国でキムチを漬け…

汲めども尽きぬもの

31周年目のバンドの新曲とは思えない、エレカシの『Easy Go』。前例踏襲をきっぱりと拒む猛々しさに、ブラウン管を通して気圧される自分がいた。NHK-BSの『The Covers』で初めて聴いた。カッチョイイ〜〜。 表現っていうのはなぁ、オメェ、こういうことなん…

したたりおちるうた(あいみょん in 六本木ヒルズアリーナ)

夕方の空の下、彼女の唄声がきれいに伸びて広がる。セーラー服で飛び降り自殺した女の子を素材にした、『生きていたんだよな』でオープニング。 「(前略) 精一杯勇気を振りしぼって彼女は空を飛んだ 鳥になって空をつかんで 風になって遥か遠くへ 希望を抱…

「東京うなじ」クルーズ〜隅田川と人生を下りまくる

東京メトロ浅草駅5番出口地上口に出ると、あの神谷バーを中央に、映画『ALWAYS三丁目の夕日』さながらの橙色に染まる街並み。川向こうにはスカイツリーが望める。気温28度もあつた日中からは一転、川岸から涼しい風が頬に。これぞ4月下旬の水上バス日和。…

空回りする四川愛(ラブ)〜四川フェス(新宿中央公園)

むせるほど濃厚な唐辛子と山椒の匂いが鼻をつく。夫婦でランチタイムに出かけた新宿中央公園は、午前11時半頃には辛いもの好きな男女でゴッタ返していた。20代から40代の日本人と、欧米系外国人も意外と多い。手分けして3つのキッチンワゴンカーの行列に並…

幸か不幸か、いいか悪いか

長い付き合いの書籍編集者からメールが届き、東洋経済オンラインでの拙記事の反響を喜んでくれた上で、こう書いてきた。 「前にも話しましたが、ルポの主戦場は、幸か不幸か、いい悪いは別にして、最も読まれうる、という意味で、オンラインに移ってきている…

イノダの悠々円卓

2分の1枚分のバタートーストにクリームチーズをのせる。そこに生ハムをかぶせて頰ばると、カロリーは高めだが抜群にうまい。 白ジャケットに黒い蝶ネクタイの60代後半と思しき男性が、ペーパードリップで1杯ずつ煎れてくれるコーヒーは、一口目に舌先の一…

アーサー・ビナードさん「日本語は消滅に向かっている」(毎日新聞)

くだらない政治パフォーマンスを「広告」と呼び、平成の嘘つき男を「チェーン店の店長」と蹴散らし、母国語もまともに喋れない子供たちに英語を押し付ける教育を「愚民政策」と斬って捨てる。インタビュー記事「日本語は消滅に向かっている」。そこらの日本…

本が勝手に動きだす〜憧れの晶文社と

出かける前に書棚を探す。早川義夫『たましいの場所』、田口ランディ『根をもつこと、翼をもつこと』、古本屋で買ったスタッズ・タケール『アメリカの分裂』。どれも晶文社が発行した本で、それら以外でもたくさん読んできた良書を出す老舗出版社。本好きな…

小さなことからコツコツと拙著紹介

(先週発売号『プレジデント』誌の新刊欄)

ゆるさにぷかぷかゆだねる

JR岡山駅前から後楽園行きのシャトルバスで通り過ぎたときから気になっていた。まだ午前10時半前なのに、駅前から伸びる桃太郎通りぞいにある少し色褪せた赤い暖簾のラーメン屋の前に5人が列を作っていたから。この老舗感満載の外観で、開店の1時間から並…

哀願するミニトマト

「お願い、女優だから顔だけは殴らないで!」 以前、夫から暴力を振るわれてそう哀願した人がいたという話に、ある種の健気なプロ根性を感じたことを思い出した。名前は忘れた。 万願寺唐辛子と獅子唐とともに水をまめにやっていたプランターのミニトマトが…

「不安で自信がない」が正しい 〜佐藤卓トークイベント(9月2日 GINZA SIX・蔦屋書店)

だってミサイルが飛んできて、日本の上空を通過して落ちているわけですよとデザイナーの佐藤卓さんは言った。それでなくても混沌とした時代なのに、さらにそんな状況だから何も不安がないという人のほうが危ないんですよ。そう気づいたら、「不安で自信がな…

自己肯定感を取り戻す(2)〜 8月31日 毎日新聞1面

(前回のつづき) 体内体感とは両親にしてもらったことを振り返ること。やはり思い出をたどると母親との思い出が圧倒的に多い。まだ保育園の頃、通勤するために最寄り駅に向かう母と手をつないで歩いたアスファルト道の光景。小学校1年生で学校のシーソーで…

自己肯定感を取り戻す(1) 〜 読売新聞8月28日朝刊の広告

きっかけはおよそ3年前の新聞記事のスクラップだった。 ふと思いついて去年の10月頃に昔のクリアファイルを見返していて、目に留まったのは白いブラウスで両手のひらをこちらに向けて微笑む女性の大きな写真が掲載された東京新聞の記事。柴田久美子・一般社…

つややかな緑色の流線型

万願寺唐辛子と獅子唐(ししとう)がほぼ似たような、小ぶりな白い花を咲かせるなんて知らなかった。どちらも花が枯れた箇所から大小の艶やかな緑色の実をふくらませることも、プチトマトはその茎も葉っぱからもあの濃厚なトマトの匂いがするなんてことも、…

*[book]不思議な風 〜 本日発売『抱きしめて看取る理由』(ワニブックスPLUS新書) 生きていると、時おり不思議な風に吹かれる。 事前に拙著を献本したNHKの人からも、週刊AERAの人からも「看取り士」という言葉を初めて知ったというメールが来た。そんな状…

アンバランスなバランス 〜 オリヴィエ・ベラミー著・藤本優子訳『マルタ・アルゲリッチ 子供と魔法』(音楽之友社) マルタアルゲリッチ 子供と魔法作者: オリヴィエ・ベラミー,藤本優子出版社/メーカー: 音楽之友社発売日: 2011/05/12メディア: 単行本購入…

「京都慕情」は錆(さび)つかない

夕食どきにテレビを観ていて、エンディングに流れてきた曲にふいに気持ちをさらわれる。普段と代わり映えしない日常に少し細波(さざなみ)が立つ。言葉数が少ないからこそ行間がふくらみ、旋律がシンプルだからこそ深くひびく。武田カオリの透き通った声が…

 はみ出してナンボ 中原一歩著『小林カツ代伝』

私が死んでもレシピは残る 小林カツ代伝作者: 中原一歩出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2017/01/26メディア: 単行本この商品を含むブログ (6件) を見る 具材がはみ出しているサンドイッチが好きだ。盛りだくさんで得した気分になれる。見ただけで目と心の…

ブーメランな言葉〜『潮』5月号「無料学習塾に集う母子家庭の子どもたち」 「半径約50cmの想像力」−それは母子家庭の子供たちを対象とする無料学習塾の運営者が、取材の中で口にした言葉だ。不躾な質問で恐縮ですが、と私が前置きをして、離婚するのは親個…

この映画を日本人が笑えない理由 (オリバー・ストーン監督『スノーデン』) 思わず息をのむ。ルービックキューブがきれいな放物線を描く一瞬に、この映画(エンターティメント)が凝縮されているからだ。 オリバー・ストーン監督が自らあの男に会いに何度もモ…