Days

「東京うなじ」クルーズ〜隅田川と人生を下りまくる

東京メトロ浅草駅5番出口地上口に出ると、あの神谷バーを中央に、映画『ALWAYS三丁目の夕日』さながらの橙色に染まる街並み。川向こうにはスカイツリーが望める。気温28度もあつた日中からは一転、川岸から涼しい風が頬に。これぞ4月下旬の水上バス日和。…

幸か不幸か、いいか悪いか

長い付き合いの書籍編集者からメールが届き、東洋経済オンラインでの拙記事の反響を喜んでくれた上で、こう書いてきた。 「前にも話しましたが、ルポの主戦場は、幸か不幸か、いい悪いは別にして、最も読まれうる、という意味で、オンラインに移ってきている…

本が勝手に動きだす〜憧れの晶文社と

出かける前に書棚を探す。早川義夫『たましいの場所』、田口ランディ『根をもつこと、翼をもつこと』、古本屋で買ったスタッズ・タケール『アメリカの分裂』。どれも晶文社が発行した本で、それら以外でもたくさん読んできた良書を出す老舗出版社。本好きな…

ゆるさにぷかぷかゆだねる

JR岡山駅前から後楽園行きのシャトルバスで通り過ぎたときから気になっていた。まだ午前10時半前なのに、駅前から伸びる桃太郎通りぞいにある少し色褪せた赤い暖簾のラーメン屋の前に5人が列を作っていたから。この老舗感満載の外観で、開店の1時間から並…

哀願するミニトマト

「お願い、女優だから顔だけは殴らないで!」 以前、夫から暴力を振るわれてそう哀願した人がいたという話に、ある種の健気なプロ根性を感じたことを思い出した。名前は忘れた。 万願寺唐辛子と獅子唐とともに水をまめにやっていたプランターのミニトマトが…

自己肯定感を取り戻す(2)〜 8月31日 毎日新聞1面

(前回のつづき) 体内体感とは両親にしてもらったことを振り返ること。やはり思い出をたどると母親との思い出が圧倒的に多い。まだ保育園の頃、通勤するために最寄り駅に向かう母と手をつないで歩いたアスファルト道の光景。小学校1年生で学校のシーソーで…

自己肯定感を取り戻す(1) 〜 読売新聞8月28日朝刊の広告

きっかけはおよそ3年前の新聞記事のスクラップだった。 ふと思いついて去年の10月頃に昔のクリアファイルを見返していて、目に留まったのは白いブラウスで両手のひらをこちらに向けて微笑む女性の大きな写真が掲載された東京新聞の記事。柴田久美子・一般社…

つややかな緑色の流線型

万願寺唐辛子と獅子唐(ししとう)がほぼ似たような、小ぶりな白い花を咲かせるなんて知らなかった。どちらも花が枯れた箇所から大小の艶やかな緑色の実をふくらませることも、プチトマトはその茎も葉っぱからもあの濃厚なトマトの匂いがするなんてことも、…

「ただの大人」へ崖っぷち〜竹原ピストルが聴きたい

遅い食後につけたテレビにピンときた。竹原のドキュメンタリーだった。 「取り返しのつかないところまで 突っ走って 突っ走り方を取り返すのさ 初めから扉なんてないのに 鍵を探し回って それじゃ ただの大人だろ」 ジャガイモみたいな髭面にしゃがれた声、…

 Yahoo!ニュース台風

Yahoo!ニュースの威力をまざまざと見せつけられた。今朝6時すぎに東洋経済オンラインにアップされた私の記事が、同10時半にはYahoo!ニュースの経済欄のトップ10にランキングされたと、編集者から電話が入った。 その編集者も初めての体験らしく、少し興奮…

ウメジャンの教え

キムジャンという韓国語がある。晩秋の韓国の家々で、大量の白菜を買い込んでキムチを漬ける作業のこと。姑とお嫁さんとか、ご近所と合同でとか、けっこう大々的に行われる。冬の到来を知らせる風物詩だ。今はどうか知らない。僕が約1年間ソウル市で下宿暮…

アホウドリがとんだ〜阿奈井文彦さん追悼会

敬愛する先達、ルポライターの阿奈井文彦さんの『サランへ 夏の光よ』(文芸春秋)は、阿奈井さんが幼少の頃に他界されたお母さんの棺の、じつに精緻な場面描写から始まる。それはゆっくりと舐めるように撮影された、映画の長回しシーンのような書きっぷりで…

バースデイケーキ

義父の誕生日に太平洋をこえてSkypeでお祝いを伝える。ウチの奥さんも帰国中なので、日本から祝意をつたえるためにこの被り物を選んだ。笑ってもらえてよかった。親戚の皆さんもニヤニヤ。

春一番の仕業(しわざ)

まいった。新聞のラテ欄で、(終)の文字が二つの番組名の後ろに付けられていた。インターFMで午後10時からの宇多田ヒカル「KUMA POWER STATION」と、NHK-FMで午後11時からの「元春レディオショー」。あっという間の2時間だった。火曜日の楽しみの二つを一…

「ジャブは嫌?」〜原悦子『初恋パンチはストレート』

「ジャブは嫌 初恋パンチはストレート わたしのハートはあなたのラブ・セコンド」 女性アイドル歌手みたいな声質で、一節も歌わず、こんな歌詞をひたすら語るレコードに友人Sと顔を見合わせ、ほぼ同時に苦笑した。また、この店でやられてしまった。 これぞ、…

いい文章への尻尾

ひょんなことから、ある歌会を見学させていただく機会をえた。歌会とは、自作の短歌を持ち寄り、批評する集まりのこと。そこで最近、最愛のご主人が老人施設に入所されることになった、女性の歌に触れることができた。 入所わずか2日目なのに、ご主人に会い…

ハングンマル〜言葉は根雪みたいに降りつもる

「クゴ、ピンゲ ジ(それって言い訳だろ)」 なつかしい友人相手に思わず口をついて出た言葉にハッとして、「ピンゲ」が「言い訳」を意味する韓国語であることをぼくははっきりと思い出した。おそらくソウルで暮していた、まさに30年近く前以来、自分の口…

ふいの温かな右手〜 久保田五十一さん(70歳)の引退報道に

「荒川さんの期待に添えなくて申し訳ないんですが、私は趣味で狩猟をやるんですよ。鳥もふくめて、山の動物たちは人間が近寄れない境界線をじつによく知っていて、そこを越えて近づける体力が欠かせない。できれば狩猟は70歳までつづけたいと思っているん…

たかじん追悼

youtubeで検索すると、昔見た、たかじんのテレビ番組が出てきた。おまけに、ゲストには、ばんばひろふみと谷村新司がいて、中学の頃から大好きだったラジオ番組「ヤンタン」の女性立ち入り禁止コーナーの話にも笑えた。そう、笑いながら合掌したい。「やっぱ…

生き物

本は生き物だとつくづく思う。 3年前に出版された本は、今まで1000部ずつ2回の増刷を重ね、いろいろな人たちとの出会いをつづけている。誰かの心を突き動かして、いろんな場所でコンサートが実現している。 被爆ピアノの出前コンサートで全国を回って…

筋金入り

お世辞にもけっして達筆とは言いがたい宛名書きの手紙に、ぼくはただただ圧倒されてしまった。送り主は九州の75歳の創業者兼経営者で、「先般は御丁寧なるお手紙をいただき恐縮いたしております」などと書かれていた。彼の会社を取材で訪ねたのは10年近…

「Lonely(ひとりぼっち)」と「 Alone(ひとりであること)」〜NHK教育ETV特集「詩人・加島祥造90歳」

63歳の姜尚中が山奥で暮らす90歳の加島を訪ね、その心情をカメラの前で打ち明ける場面があった。おおまかにはこんな内容だった。 20代の息子が自殺した悲しみに混乱してしまわないように、自分はそれ以降、意図的に自らを仕事詰めにすることで、正気を保…

「始末」ということ〜特集「京都に行きたい」(dancyu11月号)

「使い切れなかった野菜や切った後の残ったものを使って、家で簡単においしいお漬物をすぐにつくることができて、始末と楽しみの両方あるのになあ」 京都・錦市場老舗青果店『四寅』の女将さん・堀紀子さんの言葉。今売られている月刊『dancyu』11月号の「極…

蜃気楼(しんきろう)

ちょうど3カ月ぶりで1時間走った。ゆっくりしたペースだったが、独楽(こま)をイメージして、体幹を軸にして気持ち上体を進行方向に傾けて胸を張り、リズミカルに走りながら、両方の肩甲骨を背骨側へと交互に動かす。肩から力を抜くと、わりとリラックス…

追いつ追われつ

「先月も高知県の小学5年生の男の子が、あの本を読んで手紙をくれたんですよ。本屋さんで見つけてくれたらしくて、今度、広島に研修で行く予定があるので、できればそのときに自分の目で被爆ピアノを見たり、矢川さんにお会いしてみたいですってね」 約1年…

口角の上がる夏

病院の正面玄関を出ると、昼下がりの強い日差しと、むっとする暑さに全身をつつまれた。だが少しもひるまず、むしろ、もっと来やがれという気持ちだった。「そろそろ、軽いジョギングぐらいなら始めてもいいでしょう」整形外科外来の30代前半の担当医にそ…