2013-01-01から1年間の記事一覧

「あなたの任せ」のわたしとあなた

大晦日にふさわしい榎本健一!今朝のInter FM「バラカン・モーニング」で、エノケンのこの歌がかかっていて、思わず声をだして笑ってしまった。 約60年も前に、こういう歌が流れていたことに勇気づけられもすれば、失望もさせられる。それでも感情を少しも…

凡人ですが何か?〜お台場30キロ

Run

「凡人ですが何か?」 ぼくの目の前に現れた男性の黄色いTシャツの背中に黒字ゴシック体で書かれた言葉に、おもわず口角があがった。およそレース半分をすぎた16キロ地点辺り。レースではTシャツの背中の言葉をいろいろ見て来たが、一番のセンスだった。 特…

無知の知〜纐纈(はなぶさ)あや監督『ある精肉店のはなし』

大阪府貝塚市の低層住宅が並ぶ街中を、大きな背中をゆったりと揺らしながら、黒毛の和牛が男にひかれて歩いている。その異様でありながら、どこかユーモラスな場面は次の瞬間に一変する。連れて行かれた屠場で眉間を鈍器で叩き割られ、600キロ近くある牛…

生き物

本は生き物だとつくづく思う。 3年前に出版された本は、今まで1000部ずつ2回の増刷を重ね、いろいろな人たちとの出会いをつづけている。誰かの心を突き動かして、いろんな場所でコンサートが実現している。 被爆ピアノの出前コンサートで全国を回って…

つきたて納豆餅の秋

農家さんからもらってきた銀杏を爪楊枝に4つずつ刺し、網に6つ並べて焼く。黄色い銀杏が次第につやつやした緑色に変わっていく。ひと通り焼いてから、ぱりぱりになった薄皮を剥き、粗塩を振りかけて口に運ぶ。その香ばしさは、ミネラル分の豊かな塩とよく…

神様からのプレゼント〜 いたばしリバーサイドハーフマラソン

RUN

「余裕ですね?」 明らかに失速しているのに、なぜか牧村三枝子の『みちづれ』を歌っている60年配ランナーに、そう声をかけた。17キロすぎ地点で一番辛いところだ。 「いやぁ、脚はもう動かないんだけどね、ほら、呼吸はぜんぜん大丈夫だからね」 彼はす…

筋金入り

お世辞にもけっして達筆とは言いがたい宛名書きの手紙に、ぼくはただただ圧倒されてしまった。送り主は九州の75歳の創業者兼経営者で、「先般は御丁寧なるお手紙をいただき恐縮いたしております」などと書かれていた。彼の会社を取材で訪ねたのは10年近…

フォロワーの国 〜〜 吉見直人著『終戦史 なぜ決断できなかったのか』(NHK出版)

1945年6月、つまり原爆投下を招く前の時点で、連合国側に対して日本の降伏はありえた。だが結果から見れば、それは8月の2度の原爆投下後にまで先送りされてしまった。英国国立公文書館に保管された、膨大な機密文書の分析作業、関係者の戦後証言やイン…

身を粉にして書くこと ~ キャロル・スクレナカ著(星野真理訳)『レイモンド・カーヴァー 作家としての人生』

2冊同時に読み始めて、途中からカーヴァーの評伝しか読めなくなった。もう一冊は、作家の大崎善生さんが書いた、故・SM作家団鬼六の物語『赦す人』(新潮社)。前者のほうが、その筆致が淡々としながら、質量ともにとてもグラマラスで、筆者がいたずらに本…

「Lonely(ひとりぼっち)」と「 Alone(ひとりであること)」〜NHK教育ETV特集「詩人・加島祥造90歳」

63歳の姜尚中が山奥で暮らす90歳の加島を訪ね、その心情をカメラの前で打ち明ける場面があった。おおまかにはこんな内容だった。 20代の息子が自殺した悲しみに混乱してしまわないように、自分はそれ以降、意図的に自らを仕事詰めにすることで、正気を保…

「始末」ということ〜特集「京都に行きたい」(dancyu11月号)

「使い切れなかった野菜や切った後の残ったものを使って、家で簡単においしいお漬物をすぐにつくることができて、始末と楽しみの両方あるのになあ」 京都・錦市場老舗青果店『四寅』の女将さん・堀紀子さんの言葉。今売られている月刊『dancyu』11月号の「極…

飛べない自由〜中村文則『掏摸(すり)』(河出文庫)

米国のクライムノベルかと見まがうような硬質な文体。短く句読点を入れてテンポを高め、読者をぐいぐいと引っぱりこんでしまう腕力に圧倒される。文章に心地よく引きずり回される、マゾヒスティックな感覚をひさしぶりに堪能する。 反社会的な存在である掏摸…

病みつきのマトンマサラ〜西荻窪「ラヒ・パンジャービ・キッチン」

西荻窪で休日ランチと言えば、薬膳四川料理の「仙の孫」か、パキスタン濃厚カレーのラヒ・パンジャービ・キッチンか。それが、うちの夫婦の究極の選択。曇天の今日はあのマトンマサラに決めた。2、3カ月前に初めて行ったとき同様、今日も一番乗りでした。 …

朝露のマジックアワー

午前5時半すぎには、静まり返る里山の林の向う側を少しずつ明るくしていた朝陽。それが林の間からゆっくりと昇り出すと、目の前の芥子(からし)色の稲穂たちが朝露を乱反射させて少しずつ黄金色を帯び、無音のオーケストラみたいに辺り一面が一斉に輝きは…

幼形成熟 〜井口時男『少年殺人者考』(講談社)

永山則夫や李鎮宇から、宮崎勤や神戸連続児童殺人事件の少年A、最近では秋葉原無差別殺傷事件の加藤智大。本やメディアに露出した彼らの言葉や生い立ちを、文芸評論としてまとめる。その理由を、本書のあとがきで、井口氏はこう書いている。 彼らは、身をも…

ケータイ&PC禁止〜山田昭男本をダ・ヴィンチ電子ナビが紹介

8月15日発売の山田昭男さんの著書が、ダ・ヴィンチ電子ナビに「ケータイ&PC禁止」という表題で紹介されました。それがさらにyahoo!ニュースなどにも転載されて、アマゾンでいきなり100番台に急上昇!アマゾンのランキングに限ってみれば、日経新聞の広…

蜃気楼(しんきろう)

ちょうど3カ月ぶりで1時間走った。ゆっくりしたペースだったが、独楽(こま)をイメージして、体幹を軸にして気持ち上体を進行方向に傾けて胸を張り、リズミカルに走りながら、両方の肩甲骨を背骨側へと交互に動かす。肩から力を抜くと、わりとリラックス…

追いつ追われつ

「先月も高知県の小学5年生の男の子が、あの本を読んで手紙をくれたんですよ。本屋さんで見つけてくれたらしくて、今度、広島に研修で行く予定があるので、できればそのときに自分の目で被爆ピアノを見たり、矢川さんにお会いしてみたいですってね」 約1年…

新刊本のお知らせ〜山田昭男著『毎日4時45分に帰る人がやっている つまらない「常識」59の捨て方』

創業以来49年間、売上目標を立てたことがない。 この本のプロローグはそこから始まります。前例踏襲、横並び、あるいは<報告・連絡・相談>による管理主義といった日本企業の「常識」にことごとく逆行する一方、年功序列で終身雇用制度は守ることで、その…

口角の上がる夏

病院の正面玄関を出ると、昼下がりの強い日差しと、むっとする暑さに全身をつつまれた。だが少しもひるまず、むしろ、もっと来やがれという気持ちだった。「そろそろ、軽いジョギングぐらいなら始めてもいいでしょう」整形外科外来の30代前半の担当医にそ…

空(そら)から空(くう)へ 〜宮崎駿監督『風立ちぬ』

少年時代の主人公が夢の中で一人滑空するときの疾風や、避暑地で紙ヒコーキが戯れる気まぐれな夏風(それが代弁する恋模様までふくめて)、あるいは、試作戦闘機が墜落する際にまとう烈風まで――2時間近くの作品にはさまざまな風が吹いている。 それぞれがス…

中年ピノッキオ(1)

左手はひと息には届かない。最初は、電車の吊り革を握っている右手を少しずつつたって、吊り革がかかっている銀色の軸部分まで手をあげる。そこから銀色の軸を左方向に指をはわせ、左肩を同じくらいの場所ではじめて握る。 そして上半身を前に傾けると、左上…

うつろうことば〜辺見庸著『青い花』

昔、九段会館で辺見さんの講演を聴いたことがある。そのとき青空の下で桜の蕾(つぼみ)を何枚かデジカメで撮った記憶もある。たしかバッハの無伴奏チェロの演奏者との共演だった。 低音が響く、あの少ししゃがれた声と、淡々とした語り口。その言葉は、ひと…

敬意を表したくなる麺〜芝蘭神楽坂店のサンラーメン

キムチのおいしい韓国料理店と同様に、ザーサイのおいしい四川料理店にハズレはない。芝蘭神楽坂店のザーサイは、塩漬け加減が絶妙で、なおかつ濃くがあり、今まで食べてきた中で一番気に入っている。天気がよかった昨日、夫婦でそこにランチに出かけた。 最…

ドキュメンタリー映画『(仮題)ある精肉店のはなし』製作中

ドキュメンタリー映画の製作だよりが届いた。江戸時代から7代続く大阪の精肉店の家族を主人公にしたもの。その過去・現在・未来を通して、地元のだんじり祭りなどの風物詩を織り込みながら、食といのち、あるいは差別と偏見などについても考えるヒントを与…

「個で負けたわけではない」

コンフェデ杯開幕線後に読んだ記事の中で、次の記事にもっともヒリヒリする説得力を感じた。タイトルは「個で負けたわけではない」。先にホームで敗れたブルガリア戦後、何人かの選手たちが「試合内容がひどければ、ファンはもっとブーイングしていい」とコ…

「某寺」から見えてくるもの〜明治大学リバティアカデミー『「枕草子」と「春琴抄」 その日本美の文学的音楽的展開』

ふ〜ん、そうくるか。そんなこと気にしたこともなかったが、新たな視野が開かれる気が確かにした。知ることはおもしろい。谷崎潤一郎著『春琴抄』の冒頭は、こう始まる。 「春琴、ほんとうの名は鵙屋琴、大阪道修町の薬種商の生まれで没年は明治十九年十月十…

大阪ホルモンブギ〜御堂筋線・西中島南方「あらた」

大阪出張前のある日ふと浮かんだ本のタイトルが『悶々ホルモン』。佐藤和歌子さんのホルモン食べ歩きエッセイで、その抜群のタイトルが妙な鮮烈さで、頭にこびりついていた。 思い立ったが吉日と近くの本屋に出かけたら、文庫本の棚ざしでいきなり発見。しか…

まぶしい礼節〜ヨネクラボクシングジム創設50周年祝賀パーティ

ご自宅で取材をさせていただいた後、最寄り駅まで向かう近所のバス停まで送っていただいた。色は忘れたが、分厚いジャンバーを来ていらしたことはぼんやりと覚えているから、晩秋か冬だったはずだ。 もし風邪でも引かれては申し訳ありませんから、どうぞ、ご…

心の磨き方〜川田修著『僕は明日もお客さまに会いに行く。』(ダイヤモンド社)

2泊の大阪出張中、ホテルを出る前に、部屋のハンドタオルで洗面台周りをきれいに掃除した。外資系生命会社勤務の川田修さんから、以前贈っていただいた『仕事は99%気配り』(朝日新聞出版)の中でもっとも印象的だった彼の習慣の、猿真似だ。 川田さんは…