日誌
左手はひと息には届かない。最初は、電車の吊り革を握っている右手を少しずつつたって、吊り革がかかっている銀色の軸部分まで手をあげる。そこから銀色の軸を左方向に指をはわせ、左肩を同じくらいの場所ではじめて握る。 そして上半身を前に傾けると、左上…
コンフェデ杯開幕線後に読んだ記事の中で、次の記事にもっともヒリヒリする説得力を感じた。タイトルは「個で負けたわけではない」。先にホームで敗れたブルガリア戦後、何人かの選手たちが「試合内容がひどければ、ファンはもっとブーイングしていい」とコ…
先日、夫婦でランチを食べに赤坂に出かけ、そこからラフォルジュネ見物に東京駅前に向かった。案の定、丸の内口周辺は、地方から遊びにきた人たちでごった返していた。そもそも、代々木公園で行われていた南米フェスタに出かけるつもりでいたが、当日気が変…
ひとつの白木がまるでカンピョウのようにきれいに削られて1本のバットができあがる過程を、ぼくは静かに見守っていた。職場では「名人」と呼ばれるバット職人のKさんは、そんな若造を気遣っていろんな話をされながらも、手と目だけはリズミカルに動かしつづ…
小学校の頃、江戸川乱歩の怪人二十面相シリーズをどこに行くにも持ち歩いていた時期がある。小林少年や明智探偵に追われて、ときに郵便ポストや電柱に変身して見事に姿をくらます怪人に心を奪われた。その正体不明の男の変幻自在さにすっかり魅了され、ぼく…
還暦を過ぎたら、身体は老いていくんだけど、内面はむしろどんどん若返るのよ。だからもう60年、つまり私、120歳まで生きちゃうかもしれないわよ。たとえばね、食べ物の好き嫌いが逆転して、子どもの頃に嫌いだったものが近頃ふたたび嫌いになったりと…
NPOトージバさんのブース隣で、拙著を並べて、昨日の朝から夕方までで16人の方々に買っていただいた。最初の3時間は1冊も売れなくて、どんどん不安はふくらんでいったが、まぁ、最初にしてはまずまずか。いやぁ、誰かにモノを買ってもらうのは大変だなぁと…
その実を伸ばしていくキュウリが、これほど無数の棘を伸ばすとは知らなかった。その真偽はわからないが、じゅうぶんに成長するまで外敵から狙われないための自衛策と書かれているブログもあった。だが、朝の水やり時にもいで、すぐボウルにはった水に入れて…
寝る前の筋トレ中に、テレビで男が歌いはじめた。おもしろいから歌を耳にしながら続けることにした。今でも歌詞が口をついて出るし思わず歌ってる。案外。忘れないもんだね あれは17歳のときだった。秋の修学旅行で、なぜか僕は一人でクラスを代表して、彼…
そのタイトルに心惹かれたね、「真夏の夜の動物園」。 今月11日から16日まで午後5時から8時まで上野動物園が開園時間を延長して、トラライオンツアーなどを企画していたので、奥さんと出かけてみた。間近で見るサイやカバやアザラシのデカさに驚き、ど…
それは彼なりの悲しみや苦しみのおかげだよ、きっと。 20歳以上年上の大先輩の言葉に、おもわず僕は息を小さく吸い込んで黙った。やっぱりそうか、という想いが頭の端っこをかすめもした。 市井に生きる名もなき人々を訪ね歩き、その生業(なりわい)と軌跡…
曇天の 足元すくう くちなし香
「動物としてのセックスがある分だけ、恋愛こそが試されることだ。先は長いけど、そんなに長くもない。健闘を祈るよ」 土曜日の朝、ベッドでごろごろしながら、池田晶子著『14歳からの哲学』をふたたびめくっていて、「恋愛と性」のこの結びをみて、う〜〜…
野球を観てて胸が熱くなったのなんて、MLBワールドシリーズでマツイがマルティネスからホームランを打って、ヤンキースが同シリーズを制覇したとき以来。日々の暮らしの中で自分なりの”ホームラン”の打ち方と、そのための練習法を考えたい。(以下、音声付き…
なかなか見れない試合だった。 優勝を目指すチームと、引き分けで残留をめざすチームの戦い。ハーフラインの自陣側で終始引いて守るチーム。そこをなかなかこじ開けられないマンチェスターシティ。相手チームのキャプテンが一発レッドカードで不穏な空気も流…
先日取材で会った人たちから教えてもらった「ふじ幼稚園」(立川市)。彼らの大学時代のゼミの担当教官・手塚貴晴さんの建築作品で、コンセプトは佐藤可士和さんらしい。こんなジャングルジムみたいな幼稚園なら、ぼくも通いたかった。
どんどん大きくなってきたアースディ。 大手企業もどんどんブースを出店してくるほど、無視出来ない存在になってきた。東京近郊の農家と都市生活者をつなぐコンセプトで始まったイベントは、「3・11」をへて、安全安心な食べ物や自給、あるいは土に根ざし…
店内中央の厨房の三方を囲むようにカウンターがある。サラリーマンの連れ、若いカップル、小学生の子供2人をはさんで両親、ワケありげな熟年カップル、若い兄ちゃんたち・・・・・。そこに不意に登場したのは、「兄ちゃん、持ち帰り頼むわ!」と声をかけた…
昨日、有楽町線「銀座一丁目」駅近くの地下一階のルノアールで、3時間超のインタヴューを終えて、地上に出るとすっかり日が暮れていた。少し高揚した気持ちと火照った頬を、冷たい外気で冷ましつつ中央通りを歩きながら、昔、ウルトラセブンの変身メガネが…
感想はむずかしい。 答え方ひとつで、相手に自分が見切られてしまう危険性があるからだ。先の安藤事務所から持ち込まれた千枚漬けを一口食べたとき、市販品みたいな味だったが、「安藤事務所」というブランドに負けたのと、こういう老舗はいくら顔見知りとは…
おもろい続編。 「昨日やったら、もっと具が多かったんですけどねぇ」 誰も聞いていないのに、エビス様顔のおでん屋老店主が、さらにニコニコしながら言う。なんてバカ正直な、というなかれ。これ以上、最強のマーケティングはないからね。この一言は、むし…
上野駅近くで3時間ほどの取材を終えた夕方、お弁当を買って東京から新幹線へ。新大阪駅から堂島川近くの宿泊先へたどり着くと、オフィス街のど真ん中。このへんの土地勘もあまりないし、東京の下品な醤油色のじゃなくて、昆布だしの透明感のある大阪うどん…
舞台に上がる前、落語家がその演目をおさらいすることを、「噺(はなし)をさらう」という。マンションのダイニングキッチンの流し台前で、故・立川談志がさらう人情噺「芝浜」がよかった。この年始年末、もっとも印象に残ったテレビ番組の映像。たしかNHKBS…
最寄りの地下鉄の駅で下り、奥さんに頼まれていたタバコを買うために、コンビニに寄る。入口近くにタバコのディスプレイが見えたので、何も考えずに入口近くのレジ前に立つ人の後ろに並んだ。で、前の人が会計を済ませて、ぼくの順番かと思った瞬間だった。 …
「もうお帰りですか」 3泊4日の取材を終えて、駅舎でボーッとしていると、顔見知りの女性から声をかけられた。わたしが3日間泊めてもらっていた知人宅に、毎日いろんな食べ物持参で出入りされているご近所の方だった。いつも色艶のいい色白の笑顔と朗らか…
ひょろっと長い緑色の茎と、黄金色の実。稲一本はおどろくほど頼りなげで、よくもまあ雨風にも負けず、頭を垂れるほどの実をつけたものだと、あらためて思う。しかも、一年前はただの野ッ原だった場所だ。そこに去年とは違う驚きと喜びがある。今年は雑草が…
丹羽順子さんが企画した、「おいで」プロジェクトにささやかな寄付をした。福島の2家族(まだ増えるかもしれないが)を夏休みの間だけ、高知の一軒家に住んでもらい、思う存分遊んでもらうという趣旨。外遊びができず、家の中でもんもんとしている子供たち…
今夜の佐野さんのサウンドストリート、その最後にかかったこの曲を聴きながら、あらためて、そのスケールの大きさを思い知らされた。それは東日本大震災への鎮魂歌のようにも、あるいは、さらなる原発事故への黙示録としても心に響きわたった。やっぱ、スゲ…
ライラックの花が、うちのベランダで咲き誇っている。 かつては1メートルにも満たなかったのだけれど、もっと日差しを浴びようとその枝を少しずつ伸ばしていき、今では全長1・3メートルほどある。そのうえ、枝々の高低差も50センチほどあるために、小さ…
取材と打ち合わせを終えて、最寄り駅から家路をいそぐ足をおもわず止めてしまった。遊歩道の彼方にひろがる夕焼けを借景にして、大きな桜の樹が、花びらをはらはらと散らしていた。桜の奥には濃厚なピンク色の小ぶりな桃、優美な紫色のコブシの木が控えてい…