「常夜燈」から「ヒミズ」へ(1)

 おもろい続編。
「昨日やったら、もっと具が多かったんですけどねぇ」
 誰も聞いていないのに、エビス様顔のおでん屋老店主が、さらにニコニコしながら言う。なんてバカ正直な、というなかれ。これ以上、最強のマーケティングはないからね。この一言は、むしろ練りに練られたものだと考えるべき。だが、それを感じさせないオーラが、このエビス顔にはある。人間、やっぱり顔は大事。単なる見た目ではなく、それこそお出汁みたいに、生き方が染み出した顔のはなし。

 
 大阪・淀屋橋駅近くでの取材終了後、カメラマンさんに誘われたのが、「かんさいだき常夜燈」。こちらは同じ地下鉄御堂筋線中津駅」近くで、建築家安藤忠雄さんの建築事務所の近くでもある。
 グルメ漫画美味しんぼ」にも登場している。そのうえ、関東煮ともいわれる「かんとうだき」に対して、関西風あっさりおでんとして「かんさいだき」と名乗りなさいと勧めたのは、かつての常連客、故・森繁久彌氏。


 まず、ランチは800円で、メニューから4品を選んで注文すると、粕汁とダシで炊いたご飯。酒造メーカーからの取り寄せ酒粕だけに濃厚なうまさ。おでんは、えび芋・ふくろ・ロールキャベツ・ごぼ天を注文。


 濃厚な粕汁を食べた後だから、薄味おでんは、一口食べて「うまい!」というものじゃなく、素材の味を邪魔しない優しい味。カメラマンさん曰く、「のれんをくぐり出ると、あっさり忘れてしまうけど、そのくせ、また食べに来たくなる味」。スチャラカより5歳上のカメラマンさん、かなりの食通大阪人と見た。お出汁は、天然鯛のお頭のみ。

「Sさん、安藤さんとこからいただいた千枚漬けあるけど、食べはる?」と老店主からカメラマンさんに声がかかる。えっ、安藤忠雄さんからの千枚漬けのおすそ分け!。はいはい、いただきます、ぜひぜひ・・・・・・。(つづく)


(つづく)