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休憩のテラス〜「画家の素顔」展・石橋美術館(7月5日まで・福岡県久留米市)

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右斜め上から雨が降り続いているが、音はしない。目の前で葉をゆらす7月4日の枝垂れ桜や、弧状に覗く池の白蓮、その周囲をゆっくりと歩き回る真鴨、そして何より朝からつづく雨のせいでいっそう艶やかな緑葉の林に、ただただ溜息がもれる。 縦3m横6mほど…

決然たる文字 〜「須賀敦子の世界展」(神奈川県立近代文学館今月24日まで)

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須賀さんには晴れよりも、曇天のほうがしっくりとくる。折りたたみ傘をデイバックに忍ばせ、山下公園から港の見える丘公園への坂道をゆっくりと上りながら、そんなことを思った。 須賀さんの描く実在の人物たちの多くが、思うに任せない現実を、意志を曲げず…

消費される刻印 〜 アンディ・ウォーホル展(森美術館)

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宇多田やYUKIの歌をぼくが好きなのは、そこに死や虚無がきちんと挿入されているからだ。光と影があってこそ優れたポップミュージックは人の心に刻印される、勝手にそう思っている。 森美術館で開催中の「アンディ・ウォーホル展」で、もっとも驚いたのは、イ…

見ることの「足元」〜ソフィ カル 「最後のとき / 最初のとき」(原美術館 6月30日まで)

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白いあご髭、白と灰色まじりの頬髯をたくわえた男が、ぼくを見ている。タテ幅150センチ近くの画面いっぱいに彼の顔が大写しされていて、画面から約2メートルの間隔でむき合うと、身長180センチのぼくの目と、彼のつぶらな瞳がちょうど同じ高さになる…

かたわなじぶん 〜 「アートと音楽」展(都現代美術館)

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不協和音が断続的に流れるスピーカーの真下で4、5歳の女の子は両手をひろげてくるくると回り始め、ベビーカーに乗っていた3、4歳の女の子は、その展示室に入って来るととっさに両耳を押さえて顔をゆがめた。あっ、とぼくは心の中でそう声を上げていた。…

作品をミルフィーユにする第三者の上手い置き方②〜「アラブ・エキスプレス」展

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(撮影可でした) ミルフィーユとはフランス語で「千(ミル)枚の葉っぱ(フィーユ)」を意味する。カスタードにパイ生地を折り重ねていく様を例えたもの。この作品を観たとき、その言葉が思い浮かんだ。左側の家庭内は影絵のような動画で家族の日常が描かれ…

シンプルの強度①〜〜『アラブ・エクスプレス』展(森美術館 10月28日まで)

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(撮影可でした) 両手両膝を路面につけ、二列でぞろぞろと歩道を進む人たちの行列がいきなり目に飛び込んできた。大人の男たちの中に、10歳前後の女の子が周りをきょろきょろしながらもそれを真似て続いている。他方で、通行人たちが物珍しそうに眺めている…

南佳子「船の旅」展〜ドット、あるいは破線と、センチメント(ミュセ浜口陽三ヤマサコレクション7月31日終了)

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たとえば、丘の上の羊飼いの少女を描いた絵は、中央の丘はバームクーヘンみたいな縞模様が5ミリほどの破線で丹念に描かれていて、右上に昇るオレンジ色の太陽までが、同じような破線のぐるぐる巻き。 南洋系の朱色の花なら、四葉のクローバー形の花弁がぎっ…

いのちを食べるいのち〜本橋成一写真展「屠場」(銀座ニコンサロン19日終了)

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無農薬のお米作りを始めて最初に手にしたのは、「田んぼはきれい」という感受性だった。そして田植え、雑草との戦い、稲刈り、天日干し、玄米収穫、あるいは耕作放棄地の開墾と経験する中で、スーパーに並ぶお米の背景が見えるようになってきた。そこにかけ…

重森三玲「北斗七星の庭」展(ワタリウム美術館)

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「伝統は学び尽くした後で、きれいに捨てなければいけない」 「間違っているとは、ひとつの常識の中での話であって、その常識の外では間違っていないかもしれない」 「技巧を学んだ末に、無技巧で表現しなくてはいけない」 全国各地の三玲の庭のスライドを観…

藤原新也『書行無常』展

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その写真集のあとがきに目がとまる。 文章は書くものではなく、打ち込むものになったという視点から、デジタル情報に包囲される中、アナログな手段として筆をとり、書道と写真とのコラボレーションに至ったという趣旨が書かれていた。福島・インド・そして上…

NHK日曜美術館「トーゥルーズ=ロートレック展」(東京・三菱一号館美術館12月25日まで)

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ただ白一色ではなく、その隣に黒をおくことで白が白としてより輝く、ということがある。同じように、人物を描くときにどこに、どんな陰影をつけられるかで、その説得力がまるで違ってくる。 ロートレックというと、あの少しイラストチックな派手な絵柄がまっ…

写真展「Flora」(新宿区四谷4丁目クロスロードギャラリー 15日まで開催中)

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友だちの石下理栄さんが出品しています。 「花」をテーマにした写真展です。同ギャラリーは、丸ノ内線「四谷3丁目」駅から新宿通りを新宿方向へ徒歩約4分。小さい会場ですが、バリエーションは豊富。新宿通りと外苑西通りとが交差するところの右側にある、…

「白洲正子 神と仏、自然への祈り」展(世田谷美術館・今月8日まで)

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文化は発達しすぎると柔弱に流れる。人は自然から離れると病的になる。 1970年、大阪での万博博覧会に沸く日本人に背を向け、独り近江の山々に分入り、日本古来の自然信仰の痕跡を訪ね歩いていた白洲さんの言葉だ。背後を走り抜ける新幹線を尻目に、「新…

倉俣史朗とエットレ・ソットサス展(21_21デザインサイト)

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ルポ物は今売れないんですよ。もっと実用書風にしては、どうですか――書籍企画をもって営業していると、こう言われることが多い。だから、「倉俣史郎とエットレ・ソットサス」展の入口で、つぎのような倉俣さんの言葉に出くわしたときは、グッときた。 機能を…

本橋成一写真集『屠場』(平凡社刊)

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前略 こんにちは。今回は写真集『屠場』をお送りいただき、ありがとうございました。ご出版、おめでとうございます。 表紙写真に凝縮されているエネルギーには言葉を奪われました。モノクロームの微細なグラデーションがたたえる静けさに、本橋さんのダンデ…

「陰影礼賛」展(2)ー意味や権威を押し潰した先

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思わず、声を出して笑ってしまった。 時代順に、陰や影をテーマにした絵画を見てきた最後がポップアートで、まず、ロイ・リキテンシュタインの「ルームメイト」(1994年作品)が展示されていた。人物の影が「●(ドット)」の大小で描かれていた。 それま…

国立新美術館『陰影礼讃』展(10月18日まで)

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影や陰を起点に絵画や写真や現代美術を観てみる。 その視点のズラし方に心惹かれた。感想から先に書けば、もう一度行きたい、それぐらい刺激的で重厚な展示内容だった。全国の国立美術館の所蔵品から、多彩な展覧会を構成した「陰影礼讃」展のキューレターの…

奈良美智「Girl meets Boy」(広島市美術館「メモリー/メモリアル 65年目の夏に」展・11月7日まで開催中)

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三頭身ほどの大きな顔の少女の絵が目に留まる。 肩幅は顔の3分の2程度しかない。赤い唇は凹凸のない細長いグミみたいだし、鼻すじや小鼻の代わりに二つの穴だけが描かれた鼻や、右だけが異様に赤く、猫のように大きな目も注意してみると異様なのだけれど、…

建築はどこにあるの?7つのインスタレーション(東京国立近代美術館8月8日まで)

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暗い空間に入ると、その天井の中央に小さくて赤い明かりが6列ほど、長さ5mほどまっすぐに並べられて、その光を落としている。そこに薄いベージュ色の布1枚をもって立つ。50センチと25センチ大の布をはためかせたり、投げ上げたりすると、当然、その…

強い黒と深い闇(本橋成一写真展『サーカスの時間・第二幕』南青山SPACE「YUI」)

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強い黒。 サーカスという非日常にきらめくのは光ではなく、むしろ強い黒。モノクロ写真は、その闇と光のコントラストに目が惹きつけられやすい。だが、今回はそれを強くこばむような黒。観る側に「読む」ことを強いる黒だ。 ステージと、その幕ひとつ裏側に…

「不平の合唱団」テレルヴォ・カルレイネン+オリヴァー・コフタ=カルレイネン(森美術館2月28日まで)

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不平も不満もたぶん生涯なくならない。 だから眉間にしわを寄せてブツブツウダウダいうよりは、大声で歌ってしまったほうがいい。そのほうが健康的だし、他人が聞いても共感しながら笑える。自分のそれらも相対化できる。 そもそも不平や不満を口にしている…

絢香『みんな空の下』(09’NHK紅白歌合戦)

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「どうしたの?」 「この曲、すごい胸に刺さった」 うちの奥さんにたずねられて、ぼくはそう返した。きっと心ここにあらずな、虚(うつ)ろな顔つきだったのだろう。テレビのチャンネルを替えていたら、NHKハイビジョンで絢香の特集番組をやっていた。なにげ…

「陰影礼賛」展(2)ー意味や権威を押し潰した先

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思わず、声を出して笑ってしまった。 時代順に、陰や影をテーマにした絵画を見てきた最後がポップアートで、まず。、ロイ・リキテンシュタインの「ルームメイト」(1994年作品)。人物の影が「●(ドット)」の大小で描かれていた。 それまでの作品が、時…

セバスチャン・サルガド写真展『アフリカ』

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まんじりともせずその一枚と向き合いながら、思い返されたことがある。 今回の展示における子供たちの作品群だ。本物の銃を携えるぼやけた少年兵を背景に、木製のオモチャ銃を所在なげに持つ5歳前後の子どもの老人のような眼差し。どうやってそこに潜りこん…

セバスチャン・サルガド『アフリカ』(都写真美術館、すでに13日で終了済み)

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最終日13日(日)午前10時の開館10分前に着くと、都写真美術館前にはすでの30人ほどの行例ができていた。開館直前にはぼくの後ろにそれ以上の人が並んでいた。じつは前日、都庁で東京マラソンのボランティア説明会に参加後、同じ場所に来ると1時間…

北島敬三「1975−1991 コザ/東京/ニューヨーク/東欧/ソ連」(恵比寿・都写真美術館10月18日まで)

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その痩せた身体は、たぶん身長150センチ前後。彼女の褐色の顔には不釣合いな大きい鼻と口が少し歪み、誰かに毒づいているようにも見える。その大半が白髪の、しかも逆立った髪の毛が、その印象をことさら際立たせている。年齢は60代後半だろうか。 19…

佐藤哲郎写真展「andymori」(高田馬場シミズクリティブスタジオ・10月23日まで)

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「いきいきとした」という言葉をたまに見かける。 だいたい、その後には「表情」とか「映像描写」とかいった言葉がつづく。でも、じつはこれがかなりクセモノ。感想としては使いやすい言葉だが、小説でも写真でも「いきいきとした」表現そのものを創りあげる…

「骨」展(21_21デザインサイト)

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機能美も、ぼくはけっして嫌いじゃない。 「骨」展会場で、動物の骨のモノクロ写真の次は、家電品などをX線で撮影した写真。そして時計などの精密機械のすべての部品が分解されていたり、人工骨の小さな間接部分から15センチ大のものまで現物が並べられて…

山中俊治ディレクション『骨』展(21_21デザインサイト 8月30日まで)

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入口の階段下りたところに、ホッキョクグマの頭蓋骨のモノクロ拡大写真がドカ〜ンと展示されていた。まるでF1のフェラーリ、あるいは新幹線の運転手席周辺を真上から撮影したかのようで、いきなり圧倒された。極限の寒さの中で生存するために進化をかさね…