絢香『みんな空の下』(09’NHK紅白歌合戦)


「どうしたの?」
「この曲、すごい胸に刺さった」
 うちの奥さんにたずねられて、ぼくはそう返した。きっと心ここにあらずな、虚(うつ)ろな顔つきだったのだろう。テレビのチャンネルを替えていたら、NHKハイビジョンで絢香の特集番組をやっていた。なにげなくそのまま観ていると、番組の最後に去年暮れの紅白歌合戦、彼女が『みんな空の下』を歌う場面が流れた。急に胸倉をつかまれたかのように、ぼくは引き込まれた。


 歌が上手いことは知っていたし、この歌も何度か聞いたことがあった。
 だが、このときは何かが違った。以下の「youtube」動画のコメント欄でも同じ指摘がファンからもされているから、ぼくのひとりよがりではないらしい。今年から活動休止するため、当座最後の歌という思い入れが彼女の心にもあったのかもしれない。


 歌の説得力といった次元ではもはやなかった。
 NHKホールの天井を見つめながら歌う彼女は、まるで自身が放つ旋律の音符と音符のはざまを、喜怒哀楽を適度にそそぎながら気持ち良く泳いでいるように見えた。絢香本人が、彼女が表現する歌の世界にきれいに包み込まれた小さな部分集合みたい。スポットライトの光源の向こう側へ、彼女がそのまま昇っていきそうな気がするほどだった。(以下の動画とも何かが違っていた)