奈良美智「Girl meets Boy」(広島市美術館「メモリー/メモリアル 65年目の夏に」展・11月7日まで開催中)

 三頭身ほどの大きな顔の少女の絵が目に留まる。
 肩幅は顔の3分の2程度しかない。赤い唇は凹凸のない細長いグミみたいだし、鼻すじや小鼻の代わりに二つの穴だけが描かれた鼻や、右だけが異様に赤く、猫のように大きな目も注意してみると異様なのだけれど、なぜか一見するとするっと見逃してしまう。
 個々に見ればどれもアンバランスなのに、全体として見れば、一人の怜悧な皮肉屋めいた少女として奇妙にバランスがとれている。
 

 奈良美智さんのオリジナル作品と初めて向き合った。
 その妖しい質感は、テレビや雑誌を通してはなかなか伝わってこない。何層も色を塗り重ねられたうえに、さらに霧吹きか何かでベージュ色の粉でも吹きかけたかのようだ。少女のはずなのに、どこか夜の闇で艷めく水商売の女性めいた空気をまとっている。


 そのベージュ色で無地の半袖シャツは、近づいて目をこらすと、三カ所ほどがこそげ取られて、赤い色がのぞいている。それは血や傷、あるいは原爆によって焼き尽くされた広島の街さえイメージさせる。先の赤い右目とも呼応しているかのようだ。


 すると、ベージュ色の無地の背景に静かにたたずむ少女が、8月6日の記憶をぎゅぎゅっと凝縮させたシンボルとして、唐突に見る者の前に立ちはだかってくる。アンバランスでありながらバランスをととのえていることが、この絵の「行間」であることにようやく気づかされた。