NHK日曜美術館「トーゥルーズ=ロートレック展」(東京・三菱一号館美術館12月25日まで)

 
 ただ白一色ではなく、その隣に黒をおくことで白が白としてより輝く、ということがある。同じように、人物を描くときにどこに、どんな陰影をつけられるかで、その説得力がまるで違ってくる。


 ロートレックというと、あの少しイラストチックな派手な絵柄がまっさきに思い浮かぶ。だが、今朝のNHKで取り上げていたのは、都内で開催されている「ロートレック展」での、素描画や油絵で人の醜さを執拗に描いていた一面だった。


 ムーランルージュの人気踊り子が舞台で見せる高慢ちきな表情、化粧鏡前での憮然とした横顔。共に暮らした元空中ブランコ乗りだった女性の二日酔いの横顔。あるいは、彼が一時期足しげく通い、寝食を共にして恋文の代筆まで引き受けたという娼婦館の女たち――。


 もっとも実物を観たいと思ったのは、元空中ブランコ乗りの女性を描いた二日酔いの情景。これはむしろ彼女の陰こそが絵の中央にどっしりと腰を下ろしている。そのくせ、画面いっぱいの辛子色に近い黄色で包まれるとき、観られる女と観る男との、なんとも穏やかでやさしい時間が、ブラウン管を通してもなお、きっぱりと立ち上がってきた。


 番組では、上流家庭に生まれたロートレックが、10代の頃のケガで両足が不自由になったことを紹介しつつ、パリへ上京後も市井の、しかも踊り子や物売りの女性、娼婦などを好んで描き続けてきた36年の生涯を追う。ぜひ一度、それらの絵ときちんと向き合ってからまた書きたい。