遅ればせながら、ムンク展覧会(国立西洋美術館)〜あまりにロゴス(思想)な画家 

rosa412008-01-02

 2日は、美術館に行こうと決めていた。予備知識なしで絵や写真とただ向き合い、心を裸ン坊にする。まさに新年を迎えるにふさわしいから。上野の「ムンク展」から、恵比寿・東京写真美術館へハシゴする。
 ムンクといえば、あの「叫び」だが、似た構図の作品に「不安」と「絶望」がある(本展ではオリジナルではなく、いづれもコピー作で展示)。「橋の上」という構図と、「夕焼けを背景とする、あの波打つ暗い色調」の油絵という共通点がある。それらを三部作としてみると、ひとつ気づいた。
 
 少し暗いオレンジ色の夕焼けと、ねっちょりと波打つ闇という背景の構図は、明らかに「希望」と「失望」のコントラストだということ。つまり、ムンクの「絶望」や「不安」は、どちらも「希望」と「失望」が葛藤する、あくまで動的な状態として描かれている。今も昔も、とりわけ「絶望」などは黒一色的な描かれ方をしがちだが、それが「希望」が失われた後に訪れるものだとすれば、その二つはあくまでもワンセットでなければならない。
 その多層的な洞察力が、あの波打つ、ねっちょりとした質感で表出されたがゆえに、美術史に残る名画として残ったんだ、と一人合点してしまった。一連の作品は、ギリシャ語で言う「ロゴス(思想、もしくは原理)」を前提に生まれているという発見だ。


 そういう目で見ると、死体と美女が踊る「浜辺の踊り」や、うつむく女性を男が抱きすくめる「吸血鬼」などの代表作が、その「生と死」というテーマ(ロゴス)が露骨に前面に出すぎた、失敗作に見えてしまう。それなら、まだ白い肌の美女の裸体が闇に浮かぶように描かれた「マドンナ」の方が、その象徴性ゆえに、絵画表現としてははるかに洗練されているように見えてくる。
 ただ、ムンクといえば、誰もが「叫び」という作品を思い浮かべてしまう、あの強烈な作品の「スタイル」は羨ましい。ぼくの拙文が今、喉から手が出るほど欲しいものだから。