愛媛・松山を徘徊する(3)〜3000年と61年の狭間をゆらゆらり 

rosa412008-05-17



 油絵の風景画4点と、アルミ製の器に盛られた鍋焼きウドン。座敷とテーブル席を合わせても30席強の店内で、そのコントラストが鮮明だった。

 
 昼時のせいか、会社員づれ、母子づれ、主婦づれなどの老若男女で賑わっていた。松山市の中心部に伸びる大街道(おおかいどう)商店街の奥まったところを、少し脇にそれた場所にある「アサヒ」のこと。


 メニューは鍋焼きうどんと、卵入り鍋焼きうどん。それに稲荷寿司のみ。店内に貼られた赤い画用紙に、「まだ甘いものが貴重だった昭和22年に、曾祖父の考案で、アサヒの鍋焼きうどんは誕生しました」と、手書き文字で紹介されている。下の写真のような外観だから、初訪問の観光客はまず入らないだろう。
 

 だが以前、航空会社の機内誌でも紹介されたらしい。



 松山出身の60代の知人が、4歳の頃から、ここのうどんを食べて育ったと聞いて、やってきた。うどんが出てくるまで、稲荷を食べながら待つのが王道と聞き、その通りに注文。稲荷は甘さ控えめだが、鍋焼きは少々甘め。子供ならこの甘さに大喜びだろうが、オジサンにはちときびしい。七味をふりかけて、ハフハフいいながら食べる。このうどんを通して、知人の人生の断片を、少し覗き見するような感じも楽しい。

 
 でも、すごいなぁ。約61年間、親子3世代にわたってシンプルなメニューで店を守り、同様に3世代のお客さんに、ソウルフードとして愛され続けているのだから。


 後日、その知人に確かめると、店内の油絵は先代の主人、つまり祖父の作品らしい。地元の人に愛される、昔ながらのうどんを作る日常と、油絵に時間を忘れる週末。そしてあまり商売っ気のない店舗外観。アルミ鍋から立ち上る湯気の向こうに、一見何気ないけれど、しっかりと地に足のついた生き方と死に方が薫る。