NHKドラマ『坂の上の雲』〜観る者の感情をゆらがせる技術

 
 菅野美穂ってこういう役、ハマるよなぁ。そうだよねぇ、うまいよね。
 ホントは兄の親友のことが好きなのに、その気持ちは心に秘め、幼馴染みの妹として屈託のないほがらかさで接する。小さな所作や表情の変化で、ちょっとした感情のゆらぎを造形する。そのせつなさで観る者の感情までゆらがせる。
 夫婦でひさしぶりにドラマを観ている。


 香川照之も同様。陽気でいたずら好きな人物がふいに垣間見せるナイーブさを、ちょっとした目くばせや、唇や眉間のゆがみで造形してしまう。この2人なら、観る側は安心して気持ちをゆだねられるから感情移入もしやすい。


 もうひとつ、秋山兄弟の兄役・阿部寛のセリフがいい。
 兄上はいつも安定していてうらやましい、そう話す弟役・本木雅弘にこう返す。
「安定などしとらん。ただ、身辺をできるだけ単純明快にしているだけだ」


 今読んでいる、城山三郎著『粗にして野だが卑ではない―石田禮助の生涯』にも通じる。三井物産の敏腕商社マンから、乞われて国鉄総裁に就任した石田もまた、欧米式の生活スタイルを持ちながら、日本人的な質素倹約を信条としていた。単純明快の反復。



 そんなスタイルを持つには自分を律しきる厳しさと、たゆまざる習練が欠かせない。僕の場合は自分を律することに散漫で、なかなかスタイルにまでたどりつかない。