イチゴと農薬と有機肥料のゾッとする関係
- 作者: 田中裕司
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 2016/02/06
- メディア: 単行本
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この本を読めば、つやつやした濃赤色の果物の見え方がガラッと変わる。鮮やかな色や立派な形の割に、美味しいと思えるものが少ない理由もよくわかる。イチゴが農薬漬けの代表選手みたいな果物だからだ。
しかし、農薬の代わりに有機肥料で栽培すれば、今度は病害虫の餌食になり、それでも収穫を目指せば、通常以上に農薬依存を強めてしまう。それが一筋縄ではいかない難しさであり、イチゴ農家・野中慎吾さんが無農薬無肥料栽培に挑むことの輝きでもある。
だから、「希望のイチゴ」という表題こそがふさわしい。私たちにとって身近な果物を、高温多湿な風土で栽培することは、想像以上に困難である現実に、真正面から光を当てた本書の意義はとても大きい。
著者の誠実で、旺盛な取材力も素晴らしいが、残念なのは教科書みたいな記述が多すぎて、読者が主人公の悪戦苦闘に共感しづらいこと。イチゴ栽培の難しさに焦点を当てる余り、専門用語ばかりが続出して、読者をどこか置いてけぼりにしている気がして仕方ない。野中さんの描写もどこか平板で立体感に乏しい。
たとえば、野中さんの試行錯誤を、もっと明快なグローングアップ物語に落とし込み、専門用語などの説明を今の半分に抑え、日々の喜怒哀楽のエピソードをもっと肉付けすることはできなかったのか。
彼の軌跡にひとまず共感したうえで、専門用語はあまり知らなくても、イチゴ栽培の困難さと、美味しいイチゴに出合えることの幸運が、読者にもなんとなくわかる。そんなバランスの読み物にできなかったのか、と思う。