イチゴと農薬と有機肥料のゾッとする関係

希望のイチゴ

希望のイチゴ


 この本を読めば、つやつやした濃赤色の果物の見え方がガラッと変わる。鮮やかな色や立派な形の割に、美味しいと思えるものが少ない理由もよくわかる。イチゴが農薬漬けの代表選手みたいな果物だからだ。


 しかし、農薬の代わりに有機肥料で栽培すれば、今度は病害虫の餌食になり、それでも収穫を目指せば、通常以上に農薬依存を強めてしまう。それが一筋縄ではいかない難しさであり、イチゴ農家・野中慎吾さんが無農薬無肥料栽培に挑むことの輝きでもある。
 だから、「希望のイチゴ」という表題こそがふさわしい。私たちにとって身近な果物を、高温多湿な風土で栽培することは、想像以上に困難である現実に、真正面から光を当てた本書の意義はとても大きい。


 著者の誠実で、旺盛な取材力も素晴らしいが、残念なのは教科書みたいな記述が多すぎて、読者が主人公の悪戦苦闘に共感しづらいこと。イチゴ栽培の難しさに焦点を当てる余り、専門用語ばかりが続出して、読者をどこか置いてけぼりにしている気がして仕方ない。野中さんの描写もどこか平板で立体感に乏しい。 


 たとえば、野中さんの試行錯誤を、もっと明快なグローングアップ物語に落とし込み、専門用語などの説明を今の半分に抑え、日々の喜怒哀楽のエピソードをもっと肉付けすることはできなかったのか。
 彼の軌跡にひとまず共感したうえで、専門用語はあまり知らなくても、イチゴ栽培の困難さと、美味しいイチゴに出合えることの幸運が、読者にもなんとなくわかる。そんなバランスの読み物にできなかったのか、と思う。