酒井肇・智恵等著『犯罪被害者支援とは何か〜付属池田小事件の遺族と支援者による共同発信』(ミネルヴァ書房)

犯罪被害者支援とは何か―附属池田小事件の遺族と支援者による共同発信
実際、身の周りで洪水のように流通しているのは「おらおら、こんなモノを買え買え!」といったたぐいの情報が多い。人が何か危機に直面したり、悩んだときに初めて、本当に必要な情報が、まるで足りていないことに気づいた人も多いはずだ。
 2001年6月、大阪教育大学付属小学校で起きた犯人による凶行で、7歳の娘を失ったご夫妻と、その支援者らによって書かれた一冊(ASIN:4623041239)。まだ読んでいる最中なのだけれど、事件発生直後からご夫妻が、娘と普通の生活の両方をいかに奪われ、学校や警察、マスコミ、あるいは支援者らによって、どう助けられ、あるいはどう助けられず、また、いかに傷つけられたかが、実に克明にわかりやすく書かれている。
 犯人に三回も刺された愛娘を、否応なく司法解剖されてしまう苦痛。そこ解剖室の前には椅子ひとつなかったりする苦痛。おまけに、解剖の後、娘を自宅につれて帰ろうとすると、警察での事情聴取を強いられる苦痛。娘の写真がメディアで報道される苦痛。自宅のインターフォンが鳴らされ続ける苦痛。出勤途中や他の子供の通園時に取材攻勢をかけられる苦痛・・・。事件以上の二次、三次被害が大きな口をあけて待ち構えている。昔、週刊誌記者だった頃、犯罪被害者の家族を取材して罵られた経験もある私としても、耳に痛い話が多い。
 そして犯罪被害者支援というシステムが、まだまだ未整備で、穴だらけだということがよくわかる。そこを埋めていくには、こういう一冊がより多くの人に読まれて、その体験や視点を共有される必要がある。そこにマスコミの末端にいる私にも、ささやかながらできる仕事があるはずだ、という思いを強くする。