「自分らしさ」の牢獄
- 作者: 宮本みち子
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2002/11
- メディア: 新書
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いくつか興味深い話をうかがったけれど、とりわけ団塊の世代の子育てという話が印象的だった。戦後、総サラリーマン化世代の第一世代である団塊の世代は、自分たちの会社中心主義の働き方や、物欲を満たすための生き方への反省があるため、彼らの子育ての目標は個性重視や自己実現で、子供には「やりたいことをやりなさい」ととても寛容らしい。
だが一方で、やりたいことなんてそう誰もが簡単に見つけられるはずもなく、また近頃は労働市場も即戦力志向が強まっていて厳しいために、親の子育て環境とビジネス社会の現実とのギャップがかなり大きくなり、その狭間で身動きがとれなくなっている若者たちが増えている、と彼女はいう。
ぼくも引きこもりやニート(学校にも通っていず、仕事も、職業訓練もうけていない18歳から34歳までの若者)の子たちと話す機会が多いけれど、彼らの話だと、「自分探しに疲れ果てました」「やりたいことをやればいいっていわれても、それが簡単に見つけられなくて逆に苦しくなってしまう」という声が多い。「自分らしさ」とは何かがわからず、それがわからない自分がダメなんじゃないかと自己嫌悪の悪循環に陥ってしまうケースも多い。
もちろん、親たちは子供への愛情ゆえの寛容さなのだけれど、善意から発しているからこそ性質(たち)の悪い問題というのはままある。だが善意や愛情という大前提があると、そこが見えなくなりがちだ。
確かに、「個性」・「自己実現」・「自分らしさ」はどれも耳ざわりもよくて、立派な言葉だけれど、たとえばそれを仕事として実現できてる人って、実際にはごく限られた人たちだ。
ぼくみたいに、かりそめにも自分の好きなことを仕事にできていたとしても、収入は実に不安定で「自己実現」と胸をはれるレベルにはまるでない(^^;)。ましてや、出版業界における「自分らしさ」なんて、よくわからないし、ライターとしての「個性」といえるほど明確なウリがあるわけでもない。(ダ、ダメじゃん、おれ・・・)まっ、ぼくみたいなチンピラが語るべき問題じゃないかもしれないけれど。
しかし電車に乗ると「自分らしく働く」なんてキャッチコピーと、はつらつとしたスーツ姿の女性の人材派遣会社の広告とかによく出くわす。他にも「自分らしい住まい(老後)」「自分流ファッション術」とか、老若男女とわず、「自分らしさ」は大人気だ。でも、それって実際には、みんなの手元にないからこそ、消費意欲をかきたてる広告のキャッチたりうるんだよねぇ。