「サタカフェ」第二回ゲスト・筑紫みずえさんのご紹介(7月2日土曜日夕方〜)

第二回「サタカフェ」ゲスト 筑紫みずえさん

「きれいごと」をビジネスにして社会を変える女(ひと)  文責 荒川 龍
「きみはきれいなものしか見たがらないし、ドロドロしたものはきみには見えない。芸術家にはなれないよ」故・寺山修司氏は、彼のアシスタントだった筑紫さんに、そんな言葉を投げつけたといいます。少女時代から読書家で、当時は小説家志望だった筑紫さんにとっては、それは大きな衝撃だったと思います。
 その後、東京日仏学院パリ大学に学び、結婚・出産・育児をへて、彼女がはじめて社会人になられたのは、息子さんが3歳になった31歳のときです。しかし当時の日本企業で、子どものいる、31歳の専業主婦を雇い入れるところはありませんでした。「あなたの年齢で子どもがいるのは当然でしょう」そういって、彼女を迎え入れてくれたのは、フランスのメーカーの在日支社長でした。
 その後、いずれも在日支社をおくフランスの石油会社、ベルギーの銀行、スイスの信託銀行をへて、彼女は独立起業を果たします。スイスのUBS信託銀行では、40歳で信託業界初の女性の法人営業管理職につき、年収2000万円の地位を捨てての起業でした。
ひとつ面白いエピソードをご紹介します。ベルギーの銀行の面接で、担当者から金融業の印象についてきかれた筑紫さんは、こんな珍答をなさったそうです。「実は私、シェークスピアの『ヴェニスの商人』の金貸しの印象が強くて、金融業はあまり好きになれないんです」・・・・普通、銀行の面接でそ、そんなこと言いますか??
しかし、その面接担当者も少し風変わりな人だったらしく、世界銀行が債権を発行して、第三世界にお金が回るという仕組みがあると教えてくれたそうです。金融が社会の不平等を
正す側面をもっていること、そこに彼女は興味をひかれて、入行したといいます。その後、スイスの信託銀行時代に、ヨーロッパで普及し始めていたSRI(企業の社会的責任投資)の動きを知り、同僚の女性らとその勉強会を主宰され、SRI型投資信託として「エコファンド」を具体化の一歩手前まで進められたのですが、同行に合併話が出始めて頓挫。49歳で、エコファンドを販売するために投資顧問会社(株)グッドバンカーを設立されました。
 「エコファンド」とは、環境問題に積極的に取り組む企業や、環境ビジネスを行う企業銘柄を集めた投資信託のことです。筑紫さんの会社が、その企業の取り組みや情報開示度など
を調査して、格付けに反映させます。海外にそういった日本企業の取り組みを知らせる役割も担っています。その格付けを株式投資にいつ、どう反映させるかは、運用会社の裁量できまる、というパートナーシップです。
 そういう企業にファンドのお金が集まることで、企業がもっと環境施策に力を入れたり、環境を良くする技術開発をすすめる環境を作り、よりよき社会に変えていこうという商品です。しかし、男社会の金融業界では、「しょせん、きれいごとでしょう、ビジネスになるの?」といった反応で、日本初の「エコファンド」の商品化への途は、けっして平坦なものではありませんでした。
しかし99年8月、日興エコファンドが発売されると、金融のプロたちの予想を裏切り、発売2週間で約230億円、半年後には約2000億円をあつめるファンドへと急成長しました。しかも、その顧客の99%以上が、それまで投資とは無縁だった女性や若者でした、と筑紫さんはいいます。「しょせん、きれいごと」が切り拓いた、新たなマーケットです。
 昨年11月、その筑紫さんが企画し、三菱信託銀行が発売したSRIファンド第二段が「ファミリー・フレンドリー・ファンド」。社員の育児や介護支援に積極的な国内企業を組み入れたファンドです。SRI先進国の欧米でも、社員の育児や介護支援という視点の投資信託はなく、つまりは世界初のファンドになります。その理由を私が以前、筑紫さんにたずねると、「日本では珍しくても、海外の職場では社員にとって当然の権利としてすでに確立されているからでしょうね」と苦笑されていました。
 でも、よく考えると、「あなたの年齢で子どもがいるのは当然でしょう」と、専業主婦だった筑紫さんを迎え入れたフランスのメーカーの在日支社長の言葉を、具現化したファンドでもあります。それは働く女性にとって、少しでも働きやすい環境作りをうながすものだからです。
 さらには、「きみはきれいなものしか見たがらない。芸術家にはなれないよ」と、若き日の筑紫さんに言った故・寺山氏への、彼女らしい回答にも思えて仕方ありません。

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第二回「サタカフェ」トーク&ディナー
ゲスト・筑紫みずえさん(株)グッドバンカー社長7月2日(土)18時開始予定
一般前売り 6000円 特別学割  3500円 当日券   6500円
 トーク前半では筑紫さんの軌跡を、後半はこれからの働き方や社会のあり方についてお話をうかがう予定です。現在、お店レジ前にて、筑紫さんのインタヴュー記事が掲載された女性月刊誌『Precious(プレシャス』(05年6月号 講談社)単行本『ビジョンなき国の ビジョンある人々』(海象社)を発売中。
当日は本を購入していただいた方へのサイン会と、ご本人と直接交流していただく時間ももうけます。お友だちお誘い合わせの上、電話予約03-5730-0881までお電話お待ちしております。