NHK教育『夜回り先生・永谷修のメッセージ2』〜圧倒的なリアリティの強度を突きつけられて

 ちょうど去年2月、ぼくの初めて本が書店に並んだとき、よく隣に並べられていたの水谷修さんの『夜回り先生』(サンクチュアリ出版)だった。ご存知の人も多いと思うが、水谷さんの本は、その後ベストセラーになった。
 その理由が昨日、彼の電話相談や学校などでの講演会の模様をテレビで観ていて、よくわかった。彼の話のひとつひとつが分かりやすく、しかもひりひりするぐらいリアルだったからだ。
 学校や家庭で過度なストレスに苦しんでいる子どもたちが(しかも非行に走るはずもない一見普通に見える子たち)リストカットすることで、辛うじてガス抜きをして生きながらえている現実を知った。
 水谷さんがいつも講演会の一番最後で話すという、エイズで死んだ少女の話はとりわけ強烈だった。暴走族に輪姦され、彼らの金づるとして売春を強要された挙句、エイズに感染。絶望の末に無差別な復讐を誓った彼女は、トラックのヒッチハイクを敢行して、次々と男たちにエイズをうつしていく。
 しかし結果的には、このヒッチハイク旅行で、まだ治療薬が開発されていないタイプのエイズに逆感染してしまう。最後はミイラみたいになった彼女は、死の決意をしてセーラー服を着せてもらい、家族や水谷にお別れをする。「先生、バカな私の話を先生の講演で必ずみんなに聞かせてあげて。それで私みたいにエイズになる子が一人でも防げたら、こんな私だって他人の役に立てるから」と言い残して逝った話だ。
 そのリアリティの強度に涙がこぼれた。こりゃ敵わないな、と溜息をつきながら思った。その話を語り継ぐ水谷さん自身も、余命を制限される病気をかかえている。ブラウン管から立ち上るリアリティに、ここまで打ちのめされたと感じたのは、いったい、いつ以来だろうか。
 こういう実話のリアリティに対抗するには、いったいどんな取材をして、どんな文章を書けばいいのだろうか。そう考えると、ぼくはただただ途方に暮れてしまう。
 渋谷駅周辺の高層ビルらしき夜景をゆっくりとターンする映像に、何人もの幼く拙い声がかぶる。「先生、今、ぼく、リストカットしちゃった」「先生、ほんとに私は、ただ生きてるだけでいいの?」「明日になったら、ぼくを施設に預けるってお母さんに言われたんです」「先生、今、睡眠薬を15錠飲みました」「先生、これからぼく死にます。死ぬ前に、一度先生と話したいと思って・・・」