新たな路地へ新たなドアを

rosa412006-02-10

 いつもは通り過ぎる路地や、ふいに眼に留まった店に入ってみる。読んだことのない分野の本に手を伸ばし、普段なら行かないはずの展覧会に足を向けてみる。そんな一歩が、日々の生活にちょっとした発見をもたらしてくれる。自分でもわかってはいるつもりだけれど、よく忘れる。というか、どうしても億劫になる。
 いつも走る短いランニングコースの半分を走り終えると、軽いジョギングに切り替え、普段はただ引き返すだけなのに、ひょいと違う道に入ってみる。それは見慣れない商店街につながっていて、少しだけ異邦人みたいな気持ちになる。
 ふいに何度か電車に乗って、芋焼酎を買いに来た店を見つけた。それは最寄り駅から2駅も先の商店街の、ちょうど端っこあたりに位置する場所だった。方向的には当然なのだけれど、ランニングコースとこんなに近かったのかという驚きはある。見知らぬ路地が、かつて訪れたことのある場所に変わった。
 じつは、この前日、ジムを出た夕方に新しい美容室に行ってみた。20代の店員が多い店で、どうやら、おじさん客は場違いらしかった。まあ、入店してカルテまで書いている以上、店を出るわけにもいかずに、若い男の子にうながされてソファに座る。
 長く伸びた髪を短くするので、バリカンを使ってくださいと伝えたのに、その彼はあくまでハサミで切り続けている。しばらくして、時間かかるから、バリカン使っていいですよと、ぼくは老婆心からふたたび話しかけると、彼は大丈夫ですとこだわりを崩さない。
 バリカン使うと毛先が固くなるから嫌なんです。彼のその一言にピンときて、改めて鏡に映る彼を見ると、真剣な目つきでハサミを動かしている。店の客層とは明らかに違うオジサン客相手に、安易に流れず、プロとして真摯に向き合おうとする姿勢に、ぼくの心がピクンと動いた。
 それから一気に心のバリアが取れて、会話が生まれる。彼が神戸市三宮出身で、まだ上京して二年あまりだということ。あの真っ黒な汁のうどんが食べられずにいること。店には関西出身は一人だけで、ボケとツッコミの会話相手がいなくて、たまにストレスが溜まることなどを話してくれた。5万円で新品の革ジャンを買い、残金5万円とボストンバック一個で夜行バスに乗り、東京を目指した25歳の自分を、少し思い出した。
 ぼくは東京麺通団を彼に教え、彼からは高円寺にある、牛スジ入りお好み焼きの店「ぼちぼち」を教わった。