NHKドラマ『スロースタート』試写会〜取材者にとってのリアルは途中にしかない

rosa412006-12-14

 とても気真面目で直球勝負のドラマだった。CMもなく、3分ほどの休憩をはさんで二本続けて観たせいか、じつに濃厚な味わいだ。NHK東京本社で行われた、マスコミ対象のドラマ試写会にお邪魔させていただいた。拙著『レンタルお姉さん』原案、水野美紀さん主演の土曜ドラマ全2回(各1時間で、来年1月27日、2月3日午後9時から放送予定)。
 拙著の要素を精緻なタペストリーのように織り込みながら、見事なフィクションに仕立て上げている。9月にNHK大阪にお邪魔させていただき、1分の放送のために大勢のスタッフが1時間以上を費やす現場を実際に見ているから、その背後のカタチにならなかった膨大な労力と時間の尾ひれを、どうしても画面の背後に探してしまう。
 テンポはいいし、説明は端的で細かい。
 しかし、とも思う。この生真面目で濃厚な物語を、何の先入観もなく観る視聴者は、いったい、どれだけ胃もたれすることなく受けとめてくれるのだろうか。
 放送終了後、写真の椅子3脚に、水野さんと担当プロデューサーとディレクターが座って、記者会見が行われた。その様子に耳を澄ましながら、ぼくはふと天井を見上げた。自分がそこにいることに妙に現実感がもてず、ぼんやりとしながら考えていたことがある。
 与えられた脚本に自分の情熱と感情を織り込んで演技としてアウトプットするのが、水野さんのリアルだとすれば、取材者としてのぼくのリアルは、いったいどこにあるのか。それは苦心惨憺する原稿書きの現場にも、きれいに装丁された本の行間にだってある。
 しかし、それ以上にぼくにとってリアルなのはそれぞれの取材現場だ。文字にできたものもできなかったものもふくめて、その現場で過ごした時間や情景、そこで生まれた感情が、チンピラ書き手としてのぼくの血肉や骨になる。他人の人生のある一時期を伴走させてもらい、いくつかの情景やそこで生まれた言葉や生まれない言葉がもつ輝きに、文字というカタチを与える。今ここで目を閉じても、それらのいくつかはぼんやりながらも浮かんでくる。それぞれの現場をより濃密に生ききること以上の文章は書けない。命を燃やしていきる、生活や文章のリアルはいつも途中にしかない。