大友克洋『蟲師』〜海外市場を見据えた、熟練の創り手による横綱相撲 

rosa412007-04-02

 オダギリジョーという俳優は、やっぱりスゲェな。『血と骨』のはすっぱなドラ息子役、『ゆれる』の女癖の悪い人気写真家役、そしてこの映画の蟲師役。どの役にもじつに違和感なく、すんなり溶け込んでいる。そのカメレオンぶりは、誰にでもできる芸当ではない。大森南朋蒼井優江角マキコなどの共演陣もそれぞれ上手い。
 先の『棚の隅』につづいて、銀座のデカイ映画館で大友克洋『蟲師』を観た。人気漫画の映画化らしいが、大友さんが土俗的な濃厚な物語に惹かれる気持ちはわかる。世の中や人々の異変には、さまざまな蟲の存在と働きがあり、自らの身体に常闇(とこやみ)をもつ蟲師だけが、それらを見抜いて対処する力をもつ・・・・・・。そんな物語は目に見えるものにしか感応できない(あるいは対極にある占い師か霊能力者か)、近頃の世の中へのアンチテーゼにも見える。 
 同時に目に見える、ちゃちいものしか受け入れないガキンチョ観客には少しも媚びる姿勢がない。そういうやつらに「感動しましたぁ〜」「泣きましたぁ〜」と盛んに連呼させるような、オレオレ詐欺的映画とも明確に一線を画している。ビジネスとしても、世界の大友ファンを見据えて作られている横綱相撲っぽさが感じられる。実際、日本より欧州の方がきちんと評価もされるだろう。
 巧みなCGも違和感なく観られるし、物語も精緻かつ濃厚で、実力者ぞろいの俳優陣による大人の映画。ただ、情感をゆさぶられることがなかったのが、ぼくには少々食い足りない。ファンタジー作品ゆえか、登場人物たちの人間臭さが抑制され、平面的な人物造形が徹底されていたせいだろうか。