倉敷美観地区にて(3) 

rosa412007-04-11

 岡山空港から羽田に戻り、自宅へと向かう電車の中で目に飛び込んできた広告がある。「10秒メシ」というゼリー型食品のそれだった。ずっと東京にいたら、何の違和感も覚えなかったかもしれない。でも岡山で3日間を過ごしたぼくは、スピ―ド信仰もここまでくれば立派な病いだと思った。
 先のグル―プホームの食事はじつにゆったりしている。朝食は起きてきた順番に三々五々、昼食は1時間半ほどかけて行われる。さっさと食事を終えてテーブルに座ったまま寝てしまう人。氷川きよしのライブDVDに見入る人や、まだゆっくりと食べている人。職員に誘われて車椅子で散歩に出かける人もいる。手持ちぶさたなぼくは、食器洗いを担当した。
 中庭側に設けられた大きな窓から光が差し込み、ランチとシエスタが混在したような時間が流れる。3日目にもなると、ぼくもその思い思いの過ごし方に身体がなじんでくる。肩の力が抜け、思わず頬がゆるむ。
 昔、香港で会社員たちの昼食時間に出くわしたときのことを思い出した。ワゴンサ―ビスの飲茶スタイルで、連れ立ってやってきたビジネスマンたちが、ワイワイ言いながら飲み食い笑い、じつにしっかりと腹ごしらえをしていた。都内で100円ハンバーガーに行列する人たちより、ずっと楽しそうで、おいしそうに見えた。
 もちろん、ぼく自身にも、100円バーガーとはいかないが、それに類する強迫観念みたいなものは巣食っている。「ダラダラするのは悪」「優先順位を間違わずに、やるべきことを効率的にこなさなきゃいけない」とか。だからこそ、認知症のおばあちゃんたちの、穏やかでゆるやかな昼食の光景がまぶしかったにちがいない。