須藤洋平詩集『みちのく鉄砲店』〜目ん玉に飛び込んでくる二文字

みちのく鉄砲店 
 トゥレット症候群という病名を初めて知る。顔しかめや首ふりなどの運動チックと、言葉の反復や不謹慎な言葉を発する音声チックを主な症状とする神経の病気だという。その病気にかかり、夢半ばで東京から実家に戻り、療養生活を送る著者が出版した最初の詩集が、第12回中原中也賞を受賞した。
 自らの病気を題材とした「孤独とじゃれあえ!」という一編がある。真夜中、家中の酒という酒を飲みつくした著者をめぐる家族の阿鼻叫喚の光景につづく、中盤から引用する。

家を飛び出し、堤防から海に飛び込んだ。


夢中になって小さな岩場まで泳ぐと仁王立ち、周りを見渡すと何もない
黒い海にぽつんと「障害」という孤独が際立った。


芸術なんだ!僕の身体は芸術なんだ!
それがその時の僕の唯一の逃げ場だった。
「生きるという事は恐ろしいね」
祖母が畑にはびこる雑草を見て言っていた事を同時に思い出していた。
岸に戻り砂浜に寝転んでいると急に腹痛に見舞われた。薄暗い便所の中
で脂汗を流しながらしゃがんでいると、様々な落書きが目に入る。その
中に一際大きく、力強く書かれているものがある。
「今は孤独とじゃれあえ!」
それは間違いなく中学の頃、僕が書いたものであった・・・
僕は便器を舐めながら誓った。
いつだってしぶとく生き抜いてやろうと。


十三歳の夏の事だった。 

 言葉というヤツはおもしろい。誰が書いても同じ「芸術」のはずなのに、須藤君がこの詩で使っている「芸術」は、固く握りしめられたゲンコツみたいに僕の目ん玉へ飛び込んでくる。