作家・小田実さん逝去〜それも参議院選挙投票日に、という偶然 

 1982年12月7日。太平洋戦争開戦記念日の前日、19歳のぼくは一冊の本を片手にはじめて東京駅に降り立った。それは小田さんの本で、もう題名すら忘れてしまった。たしか日本と世界との関係性や、牛と人とガンジス河と死人が渾然一体とするインドの町並みについて、とても簡潔かつスリリングに書かれていた。その本に感銘をうけて、小田さんの話をじかに聞いてみたいと、12月8日に東京で行われる講演会に、大学があった長野県松本市から出てきた。
 ぼくが自分の足で自分なりの人生に踏み出した、最初の一歩だった。その一歩が、翌年の韓国の山奥でのハンセン病回復者の定着村でのワ―クキャンプ参加へ、さらには韓国留学につながっていく。
 いま思えば、韓国キャンプに参加したきっかけは、今は無き「週刊朝日ジャーナル」での同キャンプのルポ記事。その筆者である阿奈井文彦さんに、ぼくは手紙を差し上げたのだが、阿奈井さんも小田さん同様、かつてベトナム戦争反対を唱えていた「べ平連」のメンバーだった。奇妙な偶然のような必然。
 だから選挙翌日の新聞の訃報記事は鮮烈だった。間違いなく、小田さんの本との出合いから現在のチンピラ人生は始まった。そのことに改めて感謝するとともに、ご冥福をお祈りしたい。合掌。